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 カタリナの「アルフレッド様」という人名に、私はウッと心臓が握りつぶされるような心地がした。


「お兄様に?」

 私は苛立ちを隠すこともなくカタリナに言った。

「嫌よそんなの」

「1人で向かうのは行けませんよ、お嬢様」

「カタリナじゃ駄目なの?」

「私はたかが使用人です。あなた様の婚約者にお会い出来るような身分ではありません」

「……」


 途端、凄く行きたくなくなった。


「お嬢様」

 と、カタリナ。

「相変わらず、アルフレッド様が苦手のようですね」

「……」

「実の兄だというのに」


 実の兄、だからこそだ。


 実の兄だからこそ、私はあの人が苦手なのだ。


 あの兄――アルフレッドは、私とは正反対の性格だ。

 明るく活発というわけではないが、セオドアと同じくヒエラルキーの頂点にいるような男。

 気が強く発言権も強い。


「アルフレッド様は」

 カタリナは言った。

「あの方は、心の底からルーティア様を大事にしておられるのですよ」


 カタリナはいつもそう言うが、私にはそう見えない。


 アルフレッドお兄様と私の関係は、決して良いものと言えない。

 あの人はいつだって、私の引きこもりを非難してきた。

 
 兄に私の気持ちなんかわかるはずがないんだ。


 多分、あの人は私ではなくセオドアに味方するだろう。

 私が軟弱だからと。

 だから虐められたのだと。

 そう言うに決まっている。


「そんなことはありません」

 カタリナはきっぱりと言い放った。

「私も同行しますので。アルフレッド様にお話しください」

「でも」

「失礼を承知ですが。あなた方兄妹は、一度腹を割ってお話になった方が良いかと思います」


 大丈夫ですよ、と彼女は私を宥めた。

「私がついていますから」

「……」

「私がお嬢様をないがしろにしたことなんてありました?」

「……いいえ」


 私はため息をついた。

 やっぱり私は、カタリナにはかなわない。

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