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過呼吸

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 私は部屋に戻ると、手紙をゴミ箱に捨てた。


 見えないところにグイッと押し込み、なかったものとする。


 目の前から消し去ったというのに、それでもまだ私の心臓は嫌なスピードでバクバク音を立てていた。


 私は深呼吸し、落ち着いてと何度も心の中で呟く。


 大丈夫。

 もう捨てたから。

 もう見えないところに行ってしまったから。


 あの手紙が、あの男が私を苦しめようとして送って来たものは全部なくなったから。


 だから大丈夫、落ち着いて私。

 落ち着いて――。


「失礼しま――お、お嬢様!」


 聞きなれた声が、扉の方から聞こえてくる。


「大丈夫ですか? お嬢様!?」


 うっすらぼんやりとした視界の向こうに、カタリナらしき影がいるのがわかった。

 彼女は私に近づき、背中を擦る。


「お嬢様、過呼吸に! 誰か、誰か人を呼んでください! お医者様を!」


 彼女の言葉で、私は自分が過呼吸になっていることに気づいた。


 カヒューカヒューととんでもない音で呼吸しているのに、自分でもびっくりする。

 そのせいで余計に過呼吸が悪化した。


 今までこんなことはなかったはずなのに。

 今まで虐められ続けていたけど、そのときでさえ私は過呼吸になったことはなかった。


「お嬢様、これを!」

 カタリナが私に何かを被せる。

「ゆっくり深呼吸してください!」

「むっ、りっ……」

「大丈夫ですから、ほら!」


 カタリナに言われた通り、私はゆっくり深呼吸することを心がける。


 最初は上手く出来なかったが、深呼吸を繰り返すうちにだんだんと呼吸が落ち着いてきた。

 それでもまだ苦しいけれど。


「お嬢様」

 背中を擦るカタリナが、私の顔を覗き込んだ。

「何があったのですか?」

「い、いえ、なんでも……」

「おっしゃってください。何があったのですか? もしや使用人の誰かに――」

「それはない。違う。大丈夫だから」

「大丈夫ではないでしょう。使用人なんですね。わかりました。では、今から全員を呼び出してクビに――」

「違うから!」

 
 カタリナが頑固なのを思い出した。

 このままだと、関係ない使用人たちがクビにされてしまう。


 私は観念してゴミ箱を指差した。

「それ! その手紙のせいだから」




 
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