好きだから虐めてしまったなんて言われても、今更すぎて困るんですけど

時間

　そう、時間は有限だ。


　私はずっと引きこもりの令嬢でいられない。

　実家でのんびりと過ごすような穏やかな人生のままではいられないのだ。


　私は一応学園の生徒で、いつかは卒業する。

　出席は全くもってしていないけど、家でカリキュラム通りの授業を受けているという理由で、特例として進級を認められている。


　そして――。

　卒業すれば、私はあの男――婚約者のセオドアと結婚することになる。


　そうなれば、ジエンド。

　私の人生は終了だ。


　あの男のせいで私の人生はめちゃくちゃになったって言うのに、あの男の性格が未だ変わっていないというのに。

　もし私があの男に嫁いだとして、一体どうなるか容易に想像が出来る。


　あいつは明るくて人当たりも良い。

　性格は置いておいて。


　そのせいか、かなり学園でモテているのだというのが、私の兄の話だ。


　兄は既に学園を卒業しているが、その兄の同僚の弟妹が学園に通っているらしく、その又聞きの又聞きの又聞きで私の耳に入ってきた。


　あいつがそれで好きな人を見つけて私をすっぱりと切ってくれるなら楽だが、そんなことをすれば我が両親も向こうの両親も許さないだろう。

　政略婚約の破棄は容易ではない。


　そうして私はあのおぞましい男と結婚し、あの男は別の女を屋敷に連れ込み、私はその2人に毎日虐められることになるのだ。

　もしかすると、殺されるかも――。


　私は身震いした。


　いい加減、私は変わらなきゃいけなかった。

　このままだと、私は地獄に突き落とされる。


　そろそろ、両親と兄に事の顛末を伝えなければいけないのかもしれない。


　だけどどうやって？

　今更過ぎる。


　私が奴に虐められていたのは幼少期から学園入学前までで、それ以降引きこもって徹底的にセオドアとは距離を置いている。

　あの男は外面は良いせいか家族も虐めに気づいていなかった。


　両親と兄は私の不登校に困惑したが、何も言わぬ私を憐れんで好きにさせてくれていた。


　そんな優しい両親に、なんでこんな惨めな事実を伝えなければいけないのだろう。


　傍から見ればもう終わったことなのかもしれない。

　もし両親が私よりもセオドアの方を信じてしまったら？

　その話を聞いて、大袈裟に騒いでみんなに言い触らしてしまったら？


　そうやって嫌なことばかり考え続けてしまい、私は結局足踏みをし続けているのだ。