就活失敗した私は、異世界で人材紹介サービスを始めることにした

第1章

目覚め

　良い匂いがする。


　小麦粉とバターの匂いが、鼻孔をくすぐった。


　それに、太陽の光。

　暖かくて、優しい。

　まるで、お母さんのお腹にいる時のようなーーって。


　ヤバッ。


　私は慌てて目を開けた。


　ヤバい。

　今日正月じゃん。


　正月は毎年、我が家ではみんなでおせちを食べる。

　両親も妹も弟もおばあちゃんもおじいちゃんも、親戚一同集まってみんなで食べる。


　そういう、日本独特一家団欒の習慣が、我が家にはあった。


　だけどなあ。


　正直、やりたくない。

　というか、親戚の誰にも会いたくない。


　未だ就活で内定を貰っていない私は、久しぶりに会う彼らからそれを聞かれるのを恐れていた。


「千春ちゃん、卒業したらどこへ行くの？」

「なんていう会社？」

「千春、賢いからきっと大企業なんだろうなあ」

「おばあちゃん、鼻が高いよ」


　なんて言われたら、絶対に発狂する。


　耐えられない。


　だって、なんにも決まってないんだもの。

　将来も何もかも、真っ暗なままだ。


　さらにもし、

「まだ就職先見つかってないんだよねー」

　なんて言って見てほしい。


　その瞬間、見たこともない超絶気まずい空気が訪れるだろう。


「あっ……」
　
「まあまあ、大丈夫よ」

「就職出来なかったからって、別に死ぬわけじゃないし」


　と、物凄く気を使われ、後で、

「あんた本当に就職先見つからない
の？」

「親戚に気を遣わせるな」

　と、若干見映えを気にするタイプの両親に色々言われてしまうことになる。


　はぁ。

　憂鬱だ。


　私は起き上がり、眼鏡を探した。


「あー、だるっ」

「何がだるいんだ？」

「えっ……？　うぉっ」


　視界が良好になった瞬間、目の前に見知らぬイケメンが姿を現した。