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第4章

笑顔

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 その笑顔。

 その姿。


 私は、ちっとも国王が何を考えているのか知らなかったけれど。

 少なくとも、彼が先王をあまり好いていなかったのだけは、よくわかった。


 先王が死んで喜んでいることも。


 国王の、葬式での親族が取るようなものではない様子。

 私は注意深く周囲の状況を確認した。


 が、集まっていた残りの数少ない参列者は、兄のことを不思議ともおかしいとも思っていないみたいだった。

 全員、自分のことに集中しているらしく、神妙な面持ちで墓をじっと見つめている者、目を瞑って一心に祈る者、さめざめと泣く者――。


 私は泣けなかった。

 兄も。


 不思議だと思った。

 親族よりも、それ以外の人間の方が、先王の死を悲しんでいた。


「……っ」

 あまりにもじっと見つめていたせいか、兄とばっちり目が合った。
  
 びっくりする私を他所に、兄は満面の笑みを浮かべる。

「どうした? セレナ」


 ゾッとした。

 純粋な寒気。


 私は、この男に逆らうことなど出来ないのかもしれない。


 そういう、絶対的な恐怖心がドロリと垂れた。


「い、いえ……。何も」

 私は視線を逸らし、墓を見つめる。


 この男、私が見ていることにも、色々気づいたのも知っているのだろう。


「そうか」

 兄はふと、丘全体を見渡す。

「ちょうど良い。セレナ、お前は今日初めてここへ来ただろう」

「は、はい」

「ほかの王族たちへ墓参りしてくると良い。私はここで待っている」

「承知いたしました。お気遣い、誠にありがとうございます」


 先王が死んだことを、

「ちょうど良い」

 と言い放った国王は、また目を瞑って祈るような仕草をする。


 兄に逆らうわけにはいかない。


 私は軽く先王にお辞儀をして、その場を立ち去った。



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