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第3章
話
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「それで」
クロードが立ち去ってから、私はバスティンに声をかけた。
「話と言うのはなんですか?」
「単刀直入に言う」
バスティンは、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「あんた、『セレナ』じゃないだろ」
「……」
私は口を噤んだ。
「いや、あんたの身体は確かに『セレナ』だ。7歳の身体の弱い王女様。だが、その中身は違う。あんたはセレナ王女じゃない。あんたは誰だ?」
私は椅子に腰かける。
「……なぜそう思ったんですか?」
「あんたが記憶喪失ってのは、この城の人間誰もが知っていることだ。最初は俺も、そうだと思ってた。あんたと話す機会がないからな。だが」
バスティンは大量に書籍の積まれた机の中から、かび臭いマグカップを取り出す。
「図書館に忍び込んだり、クロードを利用したり。行動が非常に論理的で、かつ慎重。とても7歳の、しかも記憶喪失の子どもだとは思えない」
何か飲むか、と聞かれ、私は首を横に振った。
「そのマグカップでですよね? なら大丈夫です」
「ふん」
バスティンは鼻で笑い、マグカップを机の上に戻す。
「で、どうなんだ。実際」
「ご名答です」
私は答えた。
「私は『セレナ』ではありません。少し前に凍結魔法から目覚めたとき、私はこの身体に生まれ変わっていました」
「へえ。で、肝心の中身は『リリ』って名前なのか?」
この男。
あのときに傍にいたのか。
「いや、司書があの場に出られるわけねぇだろ。その場にいた侍女たちに話を聞いたんだ」
「そうなんですか」
私は頷く。
「そうですね。その名前は、私の前世の名前です」
「前世?」
「ご存じないですか? 私も詳しくは知らないのですが、この私が死ぬ前にいた別の世界では、輪廻転生と言うものが存在します。死んだ魂が巡り巡って、新しい身体に移動する」
「つまり」
バスティンは言った。
「あんたは一度、死んでセレナ王女に生まれ変わったってことか?」
「おそらくそうかと」
「へぇ」
バスティンは、しばし腕を組んで黙った。
「……俺があんたに協力するのは、俺の願いのためだ」
「願い?」
「俺の願いは、俺の祖父、アイザック・バスティンの研究を引き継ぎ、この国の闇の部分を知ることだ」
「研究?」
「俺の祖父の研究は、魔力について全般。別にいたって普通の研究だが、それを咎めた先々王によって処刑された」
「……」
私の脳裏に、1回目の人生の最後がフラッシュバックする。
「当時、俺の祖父は有名な学者だった。だが、先々王に処刑されたことで、祖父の書いた本すべてが禁書となった。あんたに貸した本は、俺が隠してこの城に持ってきた本だ」
「そうなんですか」
「だが、俺は別に祖父の復讐をしたいわけじゃねぇ。祖父は俺の生まれる前に死んだ。それに、今となっては過ぎた話。祖父のことは、もう誰も覚えちゃいねぇ。だけどな」
バスティンはにやりと笑う。
「考えようによっちゃ、その魔力研究、その当時の国王が俺の祖父を殺したくなるくらいに脅威があったってことだ。つまり、この国の闇がそこに隠されている。俺は祖父の研究を引き継いで、その闇を暴きたい。だから、あんたに協力した」
「私に協力して、その代わりに私に何かしてほしいんですか?」
「ああ――あんたもあの本、読んだだろう。あれは魔力過多についての研究書。祖父は魔力の中でも主に、魔力過多について興味を持っていた。つまり、あんたはこの国の闇と大いに関係があるかもしれねぇってことだ」
「……わかりました」
私は了承した。
「良いでしょう。お手伝いします」
「それは助かる――話は以上だ。あんたも俺も、早く寝た方が良い。明日、いや今日の朝に響くからな」
クロードが立ち去ってから、私はバスティンに声をかけた。
「話と言うのはなんですか?」
「単刀直入に言う」
バスティンは、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「あんた、『セレナ』じゃないだろ」
「……」
私は口を噤んだ。
「いや、あんたの身体は確かに『セレナ』だ。7歳の身体の弱い王女様。だが、その中身は違う。あんたはセレナ王女じゃない。あんたは誰だ?」
私は椅子に腰かける。
「……なぜそう思ったんですか?」
「あんたが記憶喪失ってのは、この城の人間誰もが知っていることだ。最初は俺も、そうだと思ってた。あんたと話す機会がないからな。だが」
バスティンは大量に書籍の積まれた机の中から、かび臭いマグカップを取り出す。
「図書館に忍び込んだり、クロードを利用したり。行動が非常に論理的で、かつ慎重。とても7歳の、しかも記憶喪失の子どもだとは思えない」
何か飲むか、と聞かれ、私は首を横に振った。
「そのマグカップでですよね? なら大丈夫です」
「ふん」
バスティンは鼻で笑い、マグカップを机の上に戻す。
「で、どうなんだ。実際」
「ご名答です」
私は答えた。
「私は『セレナ』ではありません。少し前に凍結魔法から目覚めたとき、私はこの身体に生まれ変わっていました」
「へえ。で、肝心の中身は『リリ』って名前なのか?」
この男。
あのときに傍にいたのか。
「いや、司書があの場に出られるわけねぇだろ。その場にいた侍女たちに話を聞いたんだ」
「そうなんですか」
私は頷く。
「そうですね。その名前は、私の前世の名前です」
「前世?」
「ご存じないですか? 私も詳しくは知らないのですが、この私が死ぬ前にいた別の世界では、輪廻転生と言うものが存在します。死んだ魂が巡り巡って、新しい身体に移動する」
「つまり」
バスティンは言った。
「あんたは一度、死んでセレナ王女に生まれ変わったってことか?」
「おそらくそうかと」
「へぇ」
バスティンは、しばし腕を組んで黙った。
「……俺があんたに協力するのは、俺の願いのためだ」
「願い?」
「俺の願いは、俺の祖父、アイザック・バスティンの研究を引き継ぎ、この国の闇の部分を知ることだ」
「研究?」
「俺の祖父の研究は、魔力について全般。別にいたって普通の研究だが、それを咎めた先々王によって処刑された」
「……」
私の脳裏に、1回目の人生の最後がフラッシュバックする。
「当時、俺の祖父は有名な学者だった。だが、先々王に処刑されたことで、祖父の書いた本すべてが禁書となった。あんたに貸した本は、俺が隠してこの城に持ってきた本だ」
「そうなんですか」
「だが、俺は別に祖父の復讐をしたいわけじゃねぇ。祖父は俺の生まれる前に死んだ。それに、今となっては過ぎた話。祖父のことは、もう誰も覚えちゃいねぇ。だけどな」
バスティンはにやりと笑う。
「考えようによっちゃ、その魔力研究、その当時の国王が俺の祖父を殺したくなるくらいに脅威があったってことだ。つまり、この国の闇がそこに隠されている。俺は祖父の研究を引き継いで、その闇を暴きたい。だから、あんたに協力した」
「私に協力して、その代わりに私に何かしてほしいんですか?」
「ああ――あんたもあの本、読んだだろう。あれは魔力過多についての研究書。祖父は魔力の中でも主に、魔力過多について興味を持っていた。つまり、あんたはこの国の闇と大いに関係があるかもしれねぇってことだ」
「……わかりました」
私は了承した。
「良いでしょう。お手伝いします」
「それは助かる――話は以上だ。あんたも俺も、早く寝た方が良い。明日、いや今日の朝に響くからな」
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