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第3章

地下書庫

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 私は次の授業終わり、この男と世間話を試みることにした。


「先生のお名前は?」

「私ですか? ええと、クロードです」

「クロード先生ですね。これからよろしくお願いいたします」

「ええ、こちらこそ」


 私は膝を曲げてお辞儀をする。

 出来るだけ、大人らしく振舞った。


 案の定、クロードは驚いたように目を丸くする。

「さすが王女様ですね。大人顔負けと言いますか、挨拶も、7歳だとは思えないほどお上手です。私の息子も見習ってほしいくらいですよ」

「あら、そんなに褒めていただけてとても嬉しいです。社交辞令でも」

「社交辞令なんてとんでもない。本心からですよ」

「本当ですか?」

「もちろんですとも。それに殿下は、勉学も素晴らしい。聡明でいらっしゃいます」

「クロード先生のような優秀な方に褒めていただけて光栄です――本当なら、もっと勉強がしたいのですけれど」

「もっと、ですか? それ以上に?」 

「はい……。ですが、私は図書館へ行くことを禁止されているのです」

「なんと」


 クロードは目を見張った。

「そうなのですか?」

「はい。私はまだ7歳。1人で図書館へ行くには、幼いと」

「そういうものなんでしょうか……。かなり過保護なんですね、国王陛下は」


 兄がセレナを心配しているなんていうことではないはずだが、ともかく私はそこに深く突っ込むことなく続ける。

「ですが、どうしても勉強がしたいのです」

「なるほど――では、私の方から図書館使用許可をいただくようにお願いしましょうか?」

「本当ですか!?」


 私は、気持ちが溢れかえっていることを表現するために、クロードの腕に飛び込んでいく。


 ちょっと臭かったか?

 少々演技チックになってしまったが、この人の良さそうな教師は私の思惑を察知することはなく、

「お安い御用ですよ」


 と、微笑んだ。

「ありがとうございます! 私、この城の図書館がすごく良いと聞いているんですよ」

「ああ、有名ですね。書籍の数はこの国で一番ですから」

「いろんな専門書がたくさんあって、中には貴重な資料まであるらしいですわ」

「ほお」

「なんでも、貴重なものは地下書庫に保存されているそうなんですけど、クロード先生はご存じですか?」

「いえ、私は何分数週間前に初めてここへ来たものですから」

「そうなんですか――でも、一度でも良いから見てみたいと思いませんか? そんな貴重な本」

「もちろんですとも」

「ですよね! ――ああ、地下書庫って、一体この城のどこにあるんでしょうか!」
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