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第3章

婚約

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 私はまた、国王陛下に呼び出された。


 玉座の前にやってきた私に、国王はこう告げた。

「先日お前がパーティで出会った隣国の王子の2人を覚えているか」

「はい」

「その2人のうち、ルーカス王子とお前の婚約が決まった」


 私は驚きのあまり、返事が出来なかった。


「わかったか?」

「……え?」

「だから、お前とルーカス王子との婚約が決まった、と言った」


 この人は一体何を言っているのだろうか。


 私は、この目の前の兄がまるで別の生き物のであるかのように見えた。


「私と、ルーカス王子がですか?」


 私はようやく、言葉らしきものを口にする。

「そうだ? 何か不満があるのか?」

「いえ。ただ、あまりにも脈絡がないもので」

「私が先日のパーティを開いた目的を、お前も気づいていたと思っていたが」

 国王は言った。


 いや、確かにその前兆あったのかもしれない。


 マナー講師から事前に軽いネタバレを喰らわなくとも、同い年くらいの少年たちとパーティ会場で接触し、その子たちの世話をしろと言われれば、その2人のどちらかと婚約するのかもしれないといったことがなんとなく想像出来るはずだとは思う。


 だが、なぜ相手があの男なのだろうか?


 正直、傍から見ても私とルーカスの相性が悪そうなのは明らかだったはずだ。


 初日、ルーカスのせいで私は倒れたし、パーティの最中にも、ほとんど会話することはなかった。


 むしろ、弟のクリストファーの方と、私は親しげに会話していた。


「ルーカス王子との婚約の理由をお聞かせ願いたいのですが」

 私は駄目元で尋ねる。


「……クリストファー王子の方が良かったのか?」

「そうとは言いません。ですが、私とルーカス王子の、あの2日間における関係は、お世辞にも良かったとは言えないのです」

「お前はあの2日間だけで、ルーカス王子の人格をわかったつもりでいるのか?」

「……いいえ」


 国王は続ける。

「セレナ、お前とルーカス王子との婚約は、元々水面下で行われていたものだ。あのパーティはお前と彼の単なる顔合わせに過ぎず、既にあの時点で、これは決定事項だったのだ」


 駄目だ。


 やっぱりこれはどうも、決定事項のようだ。


 私がどうにも出来ない範囲で、既に決められていたことなのだろう。


 思い返してみれば、クリストファーから婚約についての話を振られたとき、


「どちらかがセレナと婚約する」

 というようなことを聞いた。


 つまり、向こうも私とルーカスとの婚約が既に決まっていたことなど、知らなかったに違いない。


「……承知いたしました」

 私はそう答えるしかなかった。


「ルーカス王子とお前が婚約することで、我が国と隣国との交流がますます発展するだろう」


 国王は言った。

「くれぐれも、ルーカス王子との間で問題を起こさぬように」
 
「かしこまりました」


 私は頭を下げ、陛下の前から立ち去った。
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