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第2章

再会

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「り、璃々……」


 ルーカスはゆっくりと私に近づいてくる。


「ひ、久しぶりだ、ね」


 私は慌てて後ろに下がろうとし、ヒールが小石に引っかかって尻もちをついてしまった。


「璃々、大丈夫?」


「セ、セレナ様……?」


 侍女が困惑しながら、私の身体を起こした。


「どうなされましたか?」

「なんでもないわ」

 私は食い気味に答える。

「どうやら、ルーカス王子は疲れているようですね。しばし休憩していただきましょうか」


 私は早口で指示を出した。


「ちょっと待って」


 ルーカスは私の手を掴む。

「兄さん!」

 何してんるだ、と弟のクリストファーが、彼の腕を拘束する。


「どうしたんだ、一体? セレナ王女にご迷惑をかけてないでーーすみません、王女殿下。兄は少し疲れているようで」

「クリストファー、お前は少し黙っていろ」


 ルーカスに凄まれ、クリストファーは戸惑う。


「ど、どうしたの、兄さん……? おかしいよ、急に。本当におかしいよ」


「璃々」

 ルーカスは弟を無視し、私に向かって甘い声を出した。


「元気にしてたか?」

「誰か!」

 私は叫んだ。


「誰か、陛下をお呼びして!」


 なぜ誰もこの男を止めようとしないんだ。


 私はイラついた。


 この男が王子という称号を持っているだけで、周囲の大人たちは、誰も手出し出来ないのだ。


 私の叫び声を聞き我に返った数人が、バタバタと城に戻っていった。


「本当にすまなかった」


 ルーカスは私の手を掴んだまま、頭を下げる。


「2回も君を傷つけてしまった」

「どなたかと勘違いなさっているようですが」


 私は至極冷静に答えた。


「私の名前は、セレナです。璃々などという名前ではありません」

「違う」


 ルーカスの手に力が込められる。


「君は璃々だ。俺が間違えるものか」

「ルーカス殿下、落ち着いてくださいませ。ご乱心ですか?」

「兄さん、辞めてよ!」


 クリストファーが、もう一度制止を試みた。


「いい加減にしてくれ! 兄さん、僕たちはパーティに参加するためにここへ来たんだ。公務なんだよ!」


「黙れと言っているだろ!」

 ルーカスは怒鳴り、クリストファーの手を乱暴に振りほどいた。


「あっ」

「クリストファー殿下!」


 たじたじしていた隣国の近衛兵が、後ろに倒れ込んだ彼を支える。


 全員が困惑していた。

 ルーカスの一挙一動に。


「俺は長い間、どうかしていたんだ。自分のことばかりで、君のことをずっと傷つけていた」


 何言ってんだこいつ。


 私はもう、我慢ならなかった。


 自分のことばかり?

 それは、今もでしょう。

 今も、私や自分の弟の都合も考えず、謝るだけ謝ろうとしている。


 この男は、何も変わっていない。


 怒りがふつふつと芯から湧き上がってきた。

 それと同時に、感情とも違う何かが血管を駆け巡った。


「セレナ様!」


 誰かが叫ぶ。


「落ち着いてください!」


 バチバチと、身体の周りに火花みたいなものが飛び散った。


「璃々っ……! 痛っ」


 その火花に充てられて、ルーカスは私から身体を離した。


 血液が熱く、血管が破裂しそうになる。


 ――なに? 

 これ?


 突然頭に鈍い衝撃が走り、私の視界は暗転した。


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