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第2章

パーティ

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 その後、日々はつつがなく過ぎ去っていった。


 私が国王に対して質問をしたことで、私は消されるのではないかとひやひやしたが、まだ私に存在価値があるらしく、結局兄は、何かしらのアクションを取ることはなかったし、マナーの先生も、次の日もちゃんと生きて私に色々教えてくれた。


 パーティの日が近づくにつれ、私の周囲には良く人が出入りするようになった。

 今までほとんど見ることもなかった侍女たちが、私の部屋にやって来てはドレスを試着させる。


「セレナ様、こちらはいかがでしょうか?」

「こちらもすごくお似合いでございます」

「セレナ様のようなかわいらしい方ではないと、このドレスは似合いませんね」


 次々と誉め言葉を口にする侍女たちと、部屋の隅で山のように積まれるドレスたち。


 私は目が回った。


「……もう、何でも良いわ。皆さんが好きに選んでください」

「それは駄目です」

 侍女の一人が、憮然とした態度で言った。

「セレナ様の一大事なんですから」

「一体何が一大事なんですか?」

「え、と。それは、あの……」


 どうやら、隣国の王子が私の婚約者候補であるということも隠さなければならないらしい。


「まあ、ともかく。姫様の大事なお披露目なんですから。あなたの思うままにお決めくださいませ」


 その中でも、ベテランの侍女がきっぱりと言う。


「……わかりました」


 お披露目、か。便利な言葉もあるものだな。


 仕方なく、山の一番上に置かれていたピンク色の妖精みたいなドレスを取る。


「これにするわ」

「承知いたしました」


 私が即決すると、侍女たちはすぐさますべてのドレスを持ち上げ、引き上げていった。


 マナー講師に引き継いで、ダンスの講師も現れる。


 背の高い無表情な男で私は少々怖くなったが、根は良い人そうだった。

「セレナ様、私とでは身長差がありますが、ご了承くださいますようお願いいたします」

「ええ。よろしくお願いします」


 基本的に声を発することがなく、珍しく口を開いたと思えば、ダンスの指摘ばかりだった。


 正直、知らない人ばかりで気を遣わなければならないのが思いのほか辛く、こんなふうに大人しい人が隣にいるのは非常に楽だった。

 言葉を吐かずに済むからだ。


 その対パーティ用の授業や準備に付け加えて、通常の勉学も変わらない量で行われていた。


 私はただひたすら目の前のやるべきことをこなし続け、やがてとうとう当日がやって来たわけなのであった。
 
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