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第1章

質問

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「は?」

 兄は顔をしかめた。


 わかっていたことだが、国王に不機嫌な表情をされると、昔のトラウマが呼び起こされる。


「パーティの件については、私が先ほど伝えただろう」

「いえ、そう言うことではないんです。ただ、」


 私はなんと表現すれば良いかわからず、少し口ごもる。


「言ってみろ」

 意を決して、口を開く。

「私への教育を手配してくださったのは、陛下ですよね?」

「ああ」

「私を起こすか起こさないかという判断も、陛下の一存ですよね?」

「……ああ」


 陛下は何が言いたいとばかりに、怪訝そうな顔をしている。

「ということは、細かな指示も陛下自らが行っていらっしゃるということでよろしいのでしょうか?」

「ああ、そうだ」

「私が起こされて以来ずっと疑問を抱いているのが、私に関わる人間が私のことに関して話す際、必ず、しまったというふうな表情を浮かべることです」

「……」

 兄の表情が曇った。

「誰と誰がお前に何を話したんだ?」

「言いません。私に理由を教えていただけない限りは」

「言え」

「いいえ。答えてください――どうしてですか? どうして、私に関わる人たちはみんな私に関することを話すときに、いちいち陛下に許可をもらわなければいけないのですか? 私に情報を与えてはいけない理由でもあるのですか?」

「……」

 兄は口をつぐんだ。

「お願いいたします。教えてください」

 私は頭を下げた。

「お前は知る必要がない、というのが理由だ。お前はまだ子どもだからだ」

「でも、こうも直前にパーティの話を出されますと私の心の準備が出来ません。本当は、私を起こす前に決まっていたことなのでしょう? それに、いくら何でも私がどういう人間か、どういう性格だったのかさえ教えていただけないのは、少しおかしくないでしょうか?」


 実に正当な理由だった。

 当たり前の話だ。


 だが、国王はそうではないみたいだった。

「もう良い。下がれ」

「陛下!」

「おい、そこの者。セレナを自室に連れ戻せ」

「は!」

 扉の前で待機していた衛兵が王座の間に入り、私の腕を掴んでいった。

「さあ、まいりましょう」

 子どもの身体の私が、日々鍛錬を重ねている兵士に勝てるわけがなかった。

 渋々兵士の言う通りにする。


 部屋に戻る最中、私は考えた。


 この問題は、傍から見れば取るに足らないことだ。

 国王は私の話を聞き、

「そうか。それはすまない。次から伝えよう」

 くらい言ってくれれば済む話なのに。


 なぜこうも理由を話してくれないのだろうか。


 私は思考し、やがて一つの説を推定する。


 もしかすると、私が以前の記憶がないのと何か関わりがあるのかもしれない。

 もしかすると、陛下はわざと「セレナ」の記憶を消したのではないだろうか。


 それなら、私に考えさせない、思い出させないよう、執拗に情報を与えないのも納得出来た。
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