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第1章

隣国

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「それは、本当ですか?」

  私は尋ねた。

「隣国とのパーティがあるんですか?」

「あら、知らなかったのですか?」

  おかしいわね。

  と、先生は腕を組んで言う。

「私が知っているのですから、王女殿下が知らないのは変ですね。事前に侍女から話を聞いていないのですか?」

「侍女?」

  私はここしばらくの記憶を掘り起こす。


  そう言えば、侍女らしき人物が周りにいた気配がない。


「まあ、のちのち聞くことでしょうし。私が言っても問題はないでしょうね」

  少々マナー講師は焦っているようだった。

  いつもより早口である。


  どうやら、私に何か情報を与えると不味いらしい。

  普通に考えれば、パーティがあって私が起きた状態ならば、私も呼ばれるはずだ。

  なのに、なぜ私にその話が来ていないのだろうか。

  私が知ってはいけない理由を、私は思いつくことが出来なかった。


  しかしこれ以上聞くのも、ただでさえ失敗してしまった彼女には酷なので、私は、

「そうなんですか」

  と、出来るだけ興味がなさそうな感じで言う。

「そうなのよ」

  いくらか、彼女はホッとしたような声を出した。


  1回目の人生のとき、この国と隣国は、かなり揉めていた。

  少しでも国境を超えれば、たとえ一般市民であっても拘束され、牢屋に放り込まれる。

  いつも武器の数や人材の優秀さを競っており、いつか戦争を起こすのではないかと思っていたのだ。


  そんなひやひやする日々に終止符を打ったのが、私の元夫だった。

  女関係はクズだったが、かなり優秀な人間だったのは間違いなかった。

  私は途中で殺されてしまったから知らないが、きっとパーティを開けるほどに関係は回復しているのに違いないだろう。


  それにしても、私は少し不安だった。


  こんなにマナーを叩き込まれているのだから、きっと来月のパーティに私も出席するのかもしれない。

  しかしそれは推測に過ぎず、例えばドレスや何やらは一体どうやって調達するのだろうか。


  来月までに急ピッチで作れるお針子が、この時代にいるのかは知らないけれど、仮にも王族の衣装なのだ。

  下手なものならお話にならない。
  
  
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