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第1章
本当の部屋
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私が目覚めた部屋は、どうやら私の本来の部屋ではないらしかった。
私が安全に過ごせるようにという理由で、皮肉にも1回目の私が幽閉されていた、逃げるのが難しい離れの塔に眠らされていたのだ。
若い男は、その後もペラペラと私の身の回りのことについて話していたが、もう一人の男が戻ってくると、その会話をパタリと終了させた。
どうやら、無許可でこういう話をしてはいけないらしかった。
もう一人の男は無表情のまま、
「大事はなかったか?」
と、若い男に尋ねる。
「ええ。ありませんでした」
若い男は私に視線を送る。
どうやら黙れ、と言いたいらしい。
このままペラペラ話しても私にデメリットなんてないが、少なくとも「セレナ」という人間の詳細について、あらかた教えてもらったという恩もあり、私は何も言わずに口を閉じた。
男は私に向かって言う。
「ではセレナ様、ここを離れてあなた様の本当のお部屋に参りましょうか」
「本当の部屋?」
「ええ。ここはあなた様の本来の部屋ではありません。元々高貴な方々の独房でしたから」
高貴な方々というのは、王族のことだ。
私のときは、王族が拘束されるなんていうこと自体前代未聞だったから、時が経るに従って、この暫定的な独房も確定に変わったのだろう。
「では、参りましょうか」
男に促され、私はベッドから降り立った。
久しぶりに、宮廷の中を歩く。
私は哀愁で胸がいっぱいになる。
ああ。ここで殿下とお話をした。
この庭では、子どもたちと一緒に遊んだ。
良くここの図書館で、本を借りた。
その本で子どもたちに読み聞かせをしていた。
宮殿内は、概ね変わりなかった。相変わらず豪華な造りである。
「セレナ様、起きていらしたのですね」
「セレナ王女殿下」
「セレナ様、お久しゅうございます。何年ぶりでしたかな」
私は道中、様々な知らない顔に声をかけられた。
セレナという人間は、よっぽど周囲から好印象だったのだろう。
貴族はもちろん侍女にいたるまで、そうそうたる面々が私に挨拶をする。
私は約束した手前、出来るだけ記憶がないということを悟られないように、
「お久しぶりですね。お元気でしたか」
と、声をかけ続けた。
話し込む必要がなかったのは、頃合いになると二人の男が、
「セレナ様はこれから自室に向かわれますので」
と、会話の間に入ってくるからであった。
私とて王女の振る舞いをするのに慣れておらず、記憶がないままにそれを悟られずに会話するのを難しいと感じていたので、その助け船は非常にありがたかった。
「セレナ様、こちらがあなた様のお部屋になります」
男がそう言い、若い男がその扉を開けた。
「私たちはお部屋に入ることが出来ませんので、これで失礼します。しかし、一応お部屋の前で待機しておりますので、何かありましたら遠慮なくお申し付け下さい」
「ええ。わかったわ。ありがとう」
私は二人に言葉をかけ、扉を閉める。
懐かしい。
家具はほとんど入れ替わっていたが、私はここを忘れるはずがなかった。
ここは、かつての私の子供たちの部屋だったのだ。
私が安全に過ごせるようにという理由で、皮肉にも1回目の私が幽閉されていた、逃げるのが難しい離れの塔に眠らされていたのだ。
若い男は、その後もペラペラと私の身の回りのことについて話していたが、もう一人の男が戻ってくると、その会話をパタリと終了させた。
どうやら、無許可でこういう話をしてはいけないらしかった。
もう一人の男は無表情のまま、
「大事はなかったか?」
と、若い男に尋ねる。
「ええ。ありませんでした」
若い男は私に視線を送る。
どうやら黙れ、と言いたいらしい。
このままペラペラ話しても私にデメリットなんてないが、少なくとも「セレナ」という人間の詳細について、あらかた教えてもらったという恩もあり、私は何も言わずに口を閉じた。
男は私に向かって言う。
「ではセレナ様、ここを離れてあなた様の本当のお部屋に参りましょうか」
「本当の部屋?」
「ええ。ここはあなた様の本来の部屋ではありません。元々高貴な方々の独房でしたから」
高貴な方々というのは、王族のことだ。
私のときは、王族が拘束されるなんていうこと自体前代未聞だったから、時が経るに従って、この暫定的な独房も確定に変わったのだろう。
「では、参りましょうか」
男に促され、私はベッドから降り立った。
久しぶりに、宮廷の中を歩く。
私は哀愁で胸がいっぱいになる。
ああ。ここで殿下とお話をした。
この庭では、子どもたちと一緒に遊んだ。
良くここの図書館で、本を借りた。
その本で子どもたちに読み聞かせをしていた。
宮殿内は、概ね変わりなかった。相変わらず豪華な造りである。
「セレナ様、起きていらしたのですね」
「セレナ王女殿下」
「セレナ様、お久しゅうございます。何年ぶりでしたかな」
私は道中、様々な知らない顔に声をかけられた。
セレナという人間は、よっぽど周囲から好印象だったのだろう。
貴族はもちろん侍女にいたるまで、そうそうたる面々が私に挨拶をする。
私は約束した手前、出来るだけ記憶がないということを悟られないように、
「お久しぶりですね。お元気でしたか」
と、声をかけ続けた。
話し込む必要がなかったのは、頃合いになると二人の男が、
「セレナ様はこれから自室に向かわれますので」
と、会話の間に入ってくるからであった。
私とて王女の振る舞いをするのに慣れておらず、記憶がないままにそれを悟られずに会話するのを難しいと感じていたので、その助け船は非常にありがたかった。
「セレナ様、こちらがあなた様のお部屋になります」
男がそう言い、若い男がその扉を開けた。
「私たちはお部屋に入ることが出来ませんので、これで失礼します。しかし、一応お部屋の前で待機しておりますので、何かありましたら遠慮なくお申し付け下さい」
「ええ。わかったわ。ありがとう」
私は二人に言葉をかけ、扉を閉める。
懐かしい。
家具はほとんど入れ替わっていたが、私はここを忘れるはずがなかった。
ここは、かつての私の子供たちの部屋だったのだ。
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