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第1章
過去
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セレナは、とても複雑な立場の王女だった。
まず、彼女の母親はとうに亡くなっていた。原因は私を産んだ、ということではなく、老衰。
父親は先ほど私を「セレナ」と呼んだ老人である。
彼らはかつての国王夫妻だった。彼らはそれはそれは仲の良い夫婦で、たくさんの子どもたちが産まれ、育った。
ーー末っ子以外は。
その末っ子が私こと、セレナ第六王女であった。
彼女は生まれつき魔力量が非常に多く、それは何もしなくとも彼女の小さな身体から漏れ出すほどだった。
器以上に魔力量の多い子どもは、自分の魔力に体内器官を侵され、早死するのが常だ。
セレナがそう生まれてしまったことを嘆き悲しんだ両親は、苦肉の策として、私に凍結魔法をかけるという暴挙に出た。
凍結魔法は、全てのものの「時」を止めることが出来る大型魔法である。
それはいつの時代も禁忌とされ、特に人間にかけることにはタブー視されていた。
世界の均衡を崩すかもしれない、そんな危険な魔法なのである。
だが、彼らは自分の娘を救うために使用した。
いつの日か、セレナが長生きでいるような治療法が見つかるまでは。
むろん、禁忌魔法を使うことを国王夫妻のみが許されるということは決してない。
彼らはその責任を取って、子どもに譲位し、隠遁生活を送るようになった。
「今はまだ、あなたを長生きさせられるような治療法は見つかっていません」
若い男は私に告げた。
「なぜ今回あなたを起こしたのかについてですが、それはあなたのお父様である前国王陛下の体調が芳しくなく、最後にあなたとお話がしたかったからです」
「そうなんですか……」
私は、あの気の良さそうな老人を脳裏に思い浮かべた。
娘の、私の命を生き長らえさせるために、禁忌を犯したセレナの親。
私にとって、かなり良い親なのだろう。
しかし以前の記憶がない私にとっては、親とどうしても思えなかった。
そのことが、少し悲しい。
まず、彼女の母親はとうに亡くなっていた。原因は私を産んだ、ということではなく、老衰。
父親は先ほど私を「セレナ」と呼んだ老人である。
彼らはかつての国王夫妻だった。彼らはそれはそれは仲の良い夫婦で、たくさんの子どもたちが産まれ、育った。
ーー末っ子以外は。
その末っ子が私こと、セレナ第六王女であった。
彼女は生まれつき魔力量が非常に多く、それは何もしなくとも彼女の小さな身体から漏れ出すほどだった。
器以上に魔力量の多い子どもは、自分の魔力に体内器官を侵され、早死するのが常だ。
セレナがそう生まれてしまったことを嘆き悲しんだ両親は、苦肉の策として、私に凍結魔法をかけるという暴挙に出た。
凍結魔法は、全てのものの「時」を止めることが出来る大型魔法である。
それはいつの時代も禁忌とされ、特に人間にかけることにはタブー視されていた。
世界の均衡を崩すかもしれない、そんな危険な魔法なのである。
だが、彼らは自分の娘を救うために使用した。
いつの日か、セレナが長生きでいるような治療法が見つかるまでは。
むろん、禁忌魔法を使うことを国王夫妻のみが許されるということは決してない。
彼らはその責任を取って、子どもに譲位し、隠遁生活を送るようになった。
「今はまだ、あなたを長生きさせられるような治療法は見つかっていません」
若い男は私に告げた。
「なぜ今回あなたを起こしたのかについてですが、それはあなたのお父様である前国王陛下の体調が芳しくなく、最後にあなたとお話がしたかったからです」
「そうなんですか……」
私は、あの気の良さそうな老人を脳裏に思い浮かべた。
娘の、私の命を生き長らえさせるために、禁忌を犯したセレナの親。
私にとって、かなり良い親なのだろう。
しかし以前の記憶がない私にとっては、親とどうしても思えなかった。
そのことが、少し悲しい。
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