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第1章

探索

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  男が去るなり、私はもう一度飛び起きた。

  かなりの年数眠り続けていたのだろうか、体力が非常に落ちており、少し早く動いただけで、足元がふらついた。


  私は計算する。


  私の記憶している限り、凍結魔法の解除は数十分かかる。その後はさすがに起きなければ不味いだろう。

  つまり、私に残された数十分の時間で、自分が何者かをある程度調べる必要があった。


  わからなかったら、記憶喪失で行くか。

  いや、それはかなり面倒だ。

  記憶喪失じゃないだろと疑われたら、元も子もない。


  どうやら、解除魔法陣はベッドの範囲のみに描かれているようだ。それなら私は2回も解除魔法を受けずに済む。

  発動したらすぐに、ベッドに戻ればきっと大丈夫だ。


  私はもう一度、ベッドの柵を乗り越えて床に降りた。

  片っ端から机やクローゼット、チェストの中を漁る。

  開けては引っ張り出し、開けては引っ張り出す。

  床には、細かな模様の入った美しい子ども用のドレスや文房具類が積み重なっていく。

  しかし、やはり私を伝えてくれる何かはなさそうだった。


  どうしよう。

  このままじゃ、かなり面倒くさくなりそうだ。


  不安に駆られた私は、机に取りつけられていた最後の引き出しを手にかけ、乱暴に開けようとする。

  しかし、ガチャガチャと音が鳴るのみで、引き出しは開けることが出来なかった。

  どうやら鍵がかかっているようだ。

  私は記憶を呼び起こそうと、何度か頭を軽く振る。


  鍵の暗証番号。鍵の暗証番号……。


  2回目の人生でつけた名前をもじったパスワードじゃない。今回の人生でなにか覚えていることはないか。


  が、そこまでして簡単に記憶が甦れば、人々はみんな幸せに生きていられるだろう。

  ふと、とある数字が思い出された。

  少々気分が悪くなる。


  1回目だ。1回目のときに何かを隠すために、錠を用意した記憶がある。もしかすると、「セレナ」は1回目のほんの少しの記憶があったのかもしれない。


  出来るだけそれは使いたくなかったが、背に腹はかえられない。しかたなく、ゆっくりと鍵のダイヤルを回した。


  元夫の誕生日。

  あの冷徹な人間の産まれた日。


  鍵はカチャッと、小気味良い音を立てて外れる。

  半ば複雑な気持ちで、私はその引き出しをゆっくり開けた。

  中から出てきたのはーー。


  月日が経過して黄ばみや虫食いのある、糸で綴られたノートだった。


  日記だ。


  記憶が鮮明に思い起こされる。

「日記」。

  シンプルかつ質素な文言が表紙に書かれたそれは、私の1回目の人生に書いていた代物だった。



  
  
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