公爵令嬢は、婚約者のことを諦める

小倉みち

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第1章

諦め

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 私の婚約者であるマートンは、そのゲームの攻略対象だった。


 寡黙だが心優しく、容姿端麗なマートン。

 彼は作中の中でも、令嬢たちから人気を集めている存在だった。


 彼と男爵令嬢の出会いは、図書館だ。

 読書家のマートンは、基本的に物静かなところを好む。


 図書館で彼と運命的な出会いを果たし、徐々に仲良くなっていき、無事にゴールイン。


 ストーリーを簡略化すると、だいたいこんな感じだ。


 しかし、そこにはもちろん敵が登場する。


 それこそが私――公爵令嬢アンリだった。


 彼女は、自分の婚約者であるマートンの近くにいる男爵令嬢に嫉妬する。


 マートンが自分を見てくれないのは彼女がいるからだと考え、アンリは次々に彼女へ嫌がらせを行う。


 上靴に画びょうを入れたり、机の下にカエルの死骸を入れたり、頭上に植木鉢を落としたり……。


 とにかく、思いつく限りの酷い行いをする。


 しかしそんな虐めも、マートンにバレることで終わりを迎える。


 彼女はパーティ会場で断罪され、婚約破棄と国外追放を言い渡されるのだ。


 ――そして。

 主人公はもう完全に、マートンのルートに入ってしまっている。


 本当に危ないところだった。

 私は彼女に嫌がらせをしようとした瞬間に、前世を思い出すことが出来た。


 もしあのままだったら、私は確実に嫌がらせを行っていた。


 愛する人に婚約破棄を告げられた挙句、国外追放されるところだった。


 私だけならまだしも、家族に迷惑をかけるわけにはいかない。


 ……よし。


 私は覚悟を決めた。


 諦めよう。

 マートンのことを。


 主人公は既に、マートンルートに入っている。

 つまり、私の出る幕はない。


 私はもう、マートンの心を手に入れることは出来ない。

 そのチャンスを失ってしまったのだ。


 潔く、きっぱりと諦めよう。


 失恋は悲しい。

 だけど、この先の人生を生きていくために、彼を諦めるのはとても重要なことだ。

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