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第5章
久しぶり
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彼らに手紙を送るといっても当然、通常の便で送るわけにはいかない。
ブローディアにバレてしまえば最後、死なば諸共。
最悪全面戦争になれば、もう勝ち目はない。
圧倒的戦力差と魔力の前に、私たちはなすすべなく倒れてしまうだろう。
だからと言って、私が直接彼らのところへ赴くわけにもいかない。
現在まだ結婚していない私は、一応ブローディア第一王女という称号のままで過ごすことが出来ているけれど、実際問題私は「忌み子」として追放された身。
別ルートで送ったとしても、例えば最近知り合った商人を経由したとして、それが信頼出来るかはわからない。
私が個人的に、彼らに対して心ばかりのお礼を渡したとして――。
それはそれで、王家の者としての別問題が浮上してくる。
このマハナで居候させてもらっている手前、ウル殿下の迷惑になるようなことはしたくない。
――ということで。
「……」
「……」
「……」
「……」
殿下の執務室にて。
恐ろしく気まずい空気の中、私は久しぶりに衛兵のアオと再会した。
そう、成り行きとはいえ私と2人きりになってしまったせいで、殿下にブチ切れられたあの事件――。
その後、一切顔を合わすことはなかったけれど、この話を殿下に伝えたとき、その候補に真っ先に上がったのが彼だったのだ。
「あの件は死ぬほど癪だが」
ウル殿下は不機嫌な顔で言った。
「死ぬほど癪だが、あいつは優秀だ。きっとうまくやってくれると思うぜ。癪だが」
ウル殿下がそう言うのだから、彼のことは結構気に入っているのかもしれない。
「お久しぶりですね」
殿下とケイキの同席の下、私はアオに声をかけた。
「お元気でしたか?」
「え、ええ……。マーガレット様」
アオは目が泳いでいる。
可哀想に、よほど殿下に絞られてしまったのか。
あんなに明るく、いかにも「ひょうきん者」といったふうの彼のその姿は、すっかりと鳴りを潜めてしまっていた。
ちなみに、殿下に聞くところによると。
あの件のあと、私と会わないようなシフトを割り振られたものの、特に左遷されたとかそう言うことはしなかったらしい。
一安心である。
「今日お前を呼び出したのは」
しかし殿下はまだあのことを引きずっているらしく、ずっとぶっきらぼうだった。
「この手紙を、ブローディアの城にいる司書に届けてほしい」
殿下は彼に、私が綴った手紙を渡す。
「……はあ」
アオは、わかったようなわかっていないような顔で、それを受け取った。
「この手紙は一体?」
「マーガレット王女の個人的な手紙だ」
殿下は私の代わりに説明する。
「くれぐれも、落としたりブローディアにバレたりしないように気をつけろよ」
「そういうことなら、承知いたしました」
アオはきりっとした表情で私たちに一礼すると、颯爽と部屋から出て行った。
ブローディアにバレてしまえば最後、死なば諸共。
最悪全面戦争になれば、もう勝ち目はない。
圧倒的戦力差と魔力の前に、私たちはなすすべなく倒れてしまうだろう。
だからと言って、私が直接彼らのところへ赴くわけにもいかない。
現在まだ結婚していない私は、一応ブローディア第一王女という称号のままで過ごすことが出来ているけれど、実際問題私は「忌み子」として追放された身。
別ルートで送ったとしても、例えば最近知り合った商人を経由したとして、それが信頼出来るかはわからない。
私が個人的に、彼らに対して心ばかりのお礼を渡したとして――。
それはそれで、王家の者としての別問題が浮上してくる。
このマハナで居候させてもらっている手前、ウル殿下の迷惑になるようなことはしたくない。
――ということで。
「……」
「……」
「……」
「……」
殿下の執務室にて。
恐ろしく気まずい空気の中、私は久しぶりに衛兵のアオと再会した。
そう、成り行きとはいえ私と2人きりになってしまったせいで、殿下にブチ切れられたあの事件――。
その後、一切顔を合わすことはなかったけれど、この話を殿下に伝えたとき、その候補に真っ先に上がったのが彼だったのだ。
「あの件は死ぬほど癪だが」
ウル殿下は不機嫌な顔で言った。
「死ぬほど癪だが、あいつは優秀だ。きっとうまくやってくれると思うぜ。癪だが」
ウル殿下がそう言うのだから、彼のことは結構気に入っているのかもしれない。
「お久しぶりですね」
殿下とケイキの同席の下、私はアオに声をかけた。
「お元気でしたか?」
「え、ええ……。マーガレット様」
アオは目が泳いでいる。
可哀想に、よほど殿下に絞られてしまったのか。
あんなに明るく、いかにも「ひょうきん者」といったふうの彼のその姿は、すっかりと鳴りを潜めてしまっていた。
ちなみに、殿下に聞くところによると。
あの件のあと、私と会わないようなシフトを割り振られたものの、特に左遷されたとかそう言うことはしなかったらしい。
一安心である。
「今日お前を呼び出したのは」
しかし殿下はまだあのことを引きずっているらしく、ずっとぶっきらぼうだった。
「この手紙を、ブローディアの城にいる司書に届けてほしい」
殿下は彼に、私が綴った手紙を渡す。
「……はあ」
アオは、わかったようなわかっていないような顔で、それを受け取った。
「この手紙は一体?」
「マーガレット王女の個人的な手紙だ」
殿下は私の代わりに説明する。
「くれぐれも、落としたりブローディアにバレたりしないように気をつけろよ」
「そういうことなら、承知いたしました」
アオはきりっとした表情で私たちに一礼すると、颯爽と部屋から出て行った。
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