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第4章
試作品②
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その後も、コック長は様々な試作品を持ってきた。
宝石みたいなチョコレートだったり、銀河や惑星をモチーフにしていたり。
面白かったのは、チョコレートで立体的な薔薇や蝶を作った細工だった。
「飴細工みたいなものです」
と、コック長。
「味は二の次になりますが、見た目の美しさを重要視してみました」
「確かにこれは綺麗ですね」
私はしげしげとそのチョコレートを眺める。
チョコレートは深みのあるブラウン。
その1色だけだが、その少ない色を工夫して味わいを出している。
「博物館に展示してもおかしくないですわ」
「そんなに褒めていただけるとは、料理人冥利に尽きます」
「ねえ、殿下」
私は、執務室でがむしゃらに資料を読み込んでいるウル殿下に話しかけた。
「ん?」
彼は顔をあげる。
「どうしたんだ?」
「これ見てください。綺麗でしょう?」
私は殿下の机の上に、そのチョコレート細工を置いた。
彼の顔が、少し強張る。
「何も食べさせようってわけじゃないの。ただ、綺麗でしょう? そう思いません?」
「あ、ああ……」
殿下は皿を持ち上げて、その細工を見つめる。
「確かに綺麗だな」
「でしょう?」
「俺は買わねぇが、好きな奴は好きそうだ」
「ブローディアでは、飴細工にも一定の人気があるんです。広場でも子どもたちが買っているのをよく見ていたわ。これもうまく軌道に乗せれば、結構稼げるんじゃないかしら」
「そうだな。俺は買わねぇけど」
はい、と殿下は私の掌にそれを乗せた。
「よし。すぐに俺の目の前からチョコレートをどけてくれ」
「はーい」
そこまで言わなくても良いのに、と私はしぶしぶそれをコック長に返す。
「こんな綺麗なもの、食べられないですわ。でも見せていただいて、ありがとうございます」
「え、ええ。とんでもない――すみません、マーガレット様、少し良いでしょうか」
「ええ、良いですけど。どうかされたんですか?」
彼は私の質問に答えず、殿下の方に視線を向ける。
「すみません、殿下。数分の間、マーガレット様をお借りしてもよろしいでしょうか」
「構わんが――何を話すつもりだ?」
「いえ、チョコレートの販売に関してです。私の取り分がどれくらいなのかという」
「お前のことは信頼しているが、もし数分じゃ済まなければただじゃおかないぞ」
駄目だ、この人。
まだ怒ってる。
どうやら、ほかの男と2人で話すのが本当に嫌らしい。
「しょ、承知しました」
コック長はそう言って、私を外へ連れ出した。
「それで、あなたの取り分の話ですけど、2割でどうですか? アイデア料と言いますか。相場はそれくらいかなと」
私が廊下で話し始めると、コック長はそれを遮った。
「その話ではなく、殿下のことです」
「はあ」
「殿下のチョコレート嫌いの件、マーガレット様はご存じないのですか?」
「いえ、もちろん知っておりますけど……」
「それなら、一体どうしてなんでしょうか」
「へ?」
コック長は、何やら不思議がっている様子だ。
「殿下はあの日以来、チョコレートを見るたびにまるで鬼のように怒り狂うのです。私はそれで、この城でチョコレートを食べることはなくなったのですが」
「へぇ」
そんなになるんだ。
でもまあ、あそこまでされればその気持ちはわかるけど。
「今もそれは変わらないと思っていたのですが。あなたがあの件を知っていてなお、殿下のあの反応は」
「でも、結構嫌がっていましたよ」
私は言った。
あの人、口ぶりでは平気そうだったがかなり顔が引きつっていた。
「ですが、あなたは何度もチョコレートを殿下の前で食したりしていましたよね」
「ええ」
「殿下のトラウマは根深く、治るものではありません。それなのに、そうしても怒らないということは、よほど殿下はあなたのことを信頼しているのでしょうね」
「信頼?」
「話というのは以上です。すみません、長々と――それでは、私は失礼します」
コック長は、すぐにその場を立ち去った。
宝石みたいなチョコレートだったり、銀河や惑星をモチーフにしていたり。
面白かったのは、チョコレートで立体的な薔薇や蝶を作った細工だった。
「飴細工みたいなものです」
と、コック長。
「味は二の次になりますが、見た目の美しさを重要視してみました」
「確かにこれは綺麗ですね」
私はしげしげとそのチョコレートを眺める。
チョコレートは深みのあるブラウン。
その1色だけだが、その少ない色を工夫して味わいを出している。
「博物館に展示してもおかしくないですわ」
「そんなに褒めていただけるとは、料理人冥利に尽きます」
「ねえ、殿下」
私は、執務室でがむしゃらに資料を読み込んでいるウル殿下に話しかけた。
「ん?」
彼は顔をあげる。
「どうしたんだ?」
「これ見てください。綺麗でしょう?」
私は殿下の机の上に、そのチョコレート細工を置いた。
彼の顔が、少し強張る。
「何も食べさせようってわけじゃないの。ただ、綺麗でしょう? そう思いません?」
「あ、ああ……」
殿下は皿を持ち上げて、その細工を見つめる。
「確かに綺麗だな」
「でしょう?」
「俺は買わねぇが、好きな奴は好きそうだ」
「ブローディアでは、飴細工にも一定の人気があるんです。広場でも子どもたちが買っているのをよく見ていたわ。これもうまく軌道に乗せれば、結構稼げるんじゃないかしら」
「そうだな。俺は買わねぇけど」
はい、と殿下は私の掌にそれを乗せた。
「よし。すぐに俺の目の前からチョコレートをどけてくれ」
「はーい」
そこまで言わなくても良いのに、と私はしぶしぶそれをコック長に返す。
「こんな綺麗なもの、食べられないですわ。でも見せていただいて、ありがとうございます」
「え、ええ。とんでもない――すみません、マーガレット様、少し良いでしょうか」
「ええ、良いですけど。どうかされたんですか?」
彼は私の質問に答えず、殿下の方に視線を向ける。
「すみません、殿下。数分の間、マーガレット様をお借りしてもよろしいでしょうか」
「構わんが――何を話すつもりだ?」
「いえ、チョコレートの販売に関してです。私の取り分がどれくらいなのかという」
「お前のことは信頼しているが、もし数分じゃ済まなければただじゃおかないぞ」
駄目だ、この人。
まだ怒ってる。
どうやら、ほかの男と2人で話すのが本当に嫌らしい。
「しょ、承知しました」
コック長はそう言って、私を外へ連れ出した。
「それで、あなたの取り分の話ですけど、2割でどうですか? アイデア料と言いますか。相場はそれくらいかなと」
私が廊下で話し始めると、コック長はそれを遮った。
「その話ではなく、殿下のことです」
「はあ」
「殿下のチョコレート嫌いの件、マーガレット様はご存じないのですか?」
「いえ、もちろん知っておりますけど……」
「それなら、一体どうしてなんでしょうか」
「へ?」
コック長は、何やら不思議がっている様子だ。
「殿下はあの日以来、チョコレートを見るたびにまるで鬼のように怒り狂うのです。私はそれで、この城でチョコレートを食べることはなくなったのですが」
「へぇ」
そんなになるんだ。
でもまあ、あそこまでされればその気持ちはわかるけど。
「今もそれは変わらないと思っていたのですが。あなたがあの件を知っていてなお、殿下のあの反応は」
「でも、結構嫌がっていましたよ」
私は言った。
あの人、口ぶりでは平気そうだったがかなり顔が引きつっていた。
「ですが、あなたは何度もチョコレートを殿下の前で食したりしていましたよね」
「ええ」
「殿下のトラウマは根深く、治るものではありません。それなのに、そうしても怒らないということは、よほど殿下はあなたのことを信頼しているのでしょうね」
「信頼?」
「話というのは以上です。すみません、長々と――それでは、私は失礼します」
コック長は、すぐにその場を立ち去った。
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