上 下
50 / 86
第4章

コック長

しおりを挟む
 第3回目の会議で、私はそのチョコレートの重要性について説明することにした。


 チョコレート嫌いの殿下は置いておいて、ここでネックなのは会議参加者たち全員がチョコレートをよく知らない可能性があるということだ。


「なんですか、それ?」

 で、話が終わってしまう可能性がある。


 それは困る。

 ほかに良い案があったのならいいけど、それがないのに私の「チョコレート」案を却下されてしまえば、本当にたまったものではない。


 私はさっさと結婚してマハナ国での地位を安定させるために、この国の経済を豊かにする必要がある。

 そのために、あのチョコレートをより美味しく商品化出来る形にする。


 手始めに会議で却下されることのないよう、会議までに試作品を作り、会議参加者たちに配る。

 実際に食べてもらって、売れるかどうかを判断してもらうのだ。


 私は城のシェフに、試作品作りを手伝ってくれるようにお願いしに行った。


 直接私が1人で赴くのはなんとなくはばかれるので、殿下にも一緒に同行してもらう。


 本当なら殿下の右腕であるケイキや2人の世話係たち、そして衛兵のアオといった面々の方が仲介者には向いていると思ったが、女性陣ならまだしも、たぶん男性陣と行けば殿下は怒る。


 現在比較的穏やかで、嫉妬で怒り狂ったことも忘れていそうな殿下の心をこれ以上刺激するわけにはいかない。

 それに、彼らにはほかの業務もあるだろうし。


 それならもう、殿下で良いやという結論に至った。


「チョコレート、ですか?」


 城のコック長は、困惑していた。

「はい。ご存じですか?」

「ええ、まあ。それはもちろん……」


 コック長は殿下の方を見る。

「あの、本当によろしいのですか?」

「問題ない」

 殿下はきっぱりと言った。

「我が婚約者の頼みだ。よろしく頼む」

「そこまでおっしゃるのであれば……。承知しました」


 コック長は了承してくれた。


 彼も、例の事件は知っているみたいだ。

「ありがとうございます。つきましては、高級チョコレートを作っていただきたいのです」

「高級ですか?」

「はい。高級で希少なものをふんだんに使った、富裕層向けの商品を作りたいと考えています」

「なぜ富裕層向けなのですか?」

「マハナは今世界貿易の枠組みから除外されることになりました。つまり、海外と取引するにはこの国に旅行しに来てもらうという手段しかありません。そうなると、海外旅行出来るクラスの人間が今回のターゲットになります」

「お言葉ですが」

 と、コック長。

「本来、このチョコレートは郷土料理です。出来るだけお金をかけずに甘いものを食べるというものですよ。それを富裕層向けにだなんて。少しミスマッチではないですか?」

「そんなことありませんよ」


 私はにっこりと微笑む。

「お金をかけずに手頃な値段で購入出来るというのも、もちろん重要です。ですが、その無駄にお金をかけることこそがお金持ちには重要なんですよ」

「と言うと?」

「安価なものではなく、あえて高級なものを買うということは、一種のステータスなんです。パイナップルのときと同じですよ。高いものであれば、より彼らの自尊心は高められる。だからみんな買い漁ろうとする、というわけです。それに、お金をかければかけるほど、美味しいものが出来上がるでしょう? 美味しければ口コミは広がる。そして、さらに売れるようになります」

「なるほど……」


 コック長は微笑み返した。

「失礼なことを申し上げてしまい、申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらないでください」

「実は、カカオの生産地が私の出身地なんです」

「へぇ」


 あの2人と同郷なのか。


「私も好きなんです、チョコレート。いろいろあってここでは食べられなくなりましたが。マーガレット様にそこまでご興味を持っていただけて、あの村出身の身としては鼻高々です。本当にありがとうございます」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

処理中です...