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第3章
始動
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殿下と私の間の問題は未だ解決していない。
とは言え、私たちはずっとそれにかまけている場合ではなかった。
あの例の計画を実行する日がやって来たのだ。
マハナは、まず国外輸出するパイナップルを、すべて2倍の価格にすることに決定した。
それらを国内外に向けての声明で発表する。
もちろん、ただ値上げをするわけではない。
声明文には、
「天然物のパイナップル」
という文言が、いくつも散りばめられていた。
人工物と天然物。
私たちが争点にしたい部分はここだった。
上手く行けば、ブローディア国を煽ることが出来れば、まず注目を集めるという第1段階はクリア出来る。
重要なのは、目立つことだ。
マハナ国の行動に全世界が注目すること、そのためには大口を叩くしかない。
ブローディアのパイナップルは人口物で、マハナのパイナップルは天然物。
人口と天然のどっちが良いとかそんなもの私にだってわからないが、少なくともお金持ちは手間暇かけたものによりお金を出す傾向にある。
それを信じて、私たちは大国に向かって牙を向いた。
「……へえ」
公式の声明文を出してから数日後、執務室に届いた大量の新聞を片手に、ウル殿下は独り言を呟いている。
「どうだった?」
私は尋ねた。
「なんて書いてあったの?」
「全然書いてない」
「本当に?」
「なんで俺が嘘つく必要があるんだよ」
私たちが大量に各国の新聞を取り寄せた理由は、数日前に出した声明文の反響を確認するためだ。
世界には約30もの国が存在する。
それに、1国につき1紙なわけがない。
1つの国にはいくつもの新聞が発行されており、それを全部買おうと思えば、とんでもない量になる。
さすがにそんなに買うわけにもいかず、1国最低1紙という配分で購入したものの、それでも30以上はある。
執務室に積み上げられた新聞紙を殿下と私の2人で分け、それらを全部さらう。
正直、こんなもの他の人に任せれば良いと思う。
でも、殿下は自分で全部したいらしい。
私はマハナ語とブローディア語以外で読める言語はなく、それっぽい記事を見つけては辞書で調べるという面倒な作業をする。
その手間のせいで、全然読み進められない。
対してウル殿下は、ほとんどの言語をマスターしているらしい。
さすが第一王子。
「一言も書かれてないわけ?」
私は殿下に近づく。
それは確か、マハナから一番近い国の新聞だ。
「一言も書かれてないわけじゃない。だが、ここ見ろ」
殿下は紙面を叩く。
「どこ?」
「これだ」
私は新聞紙を覗き込んだ。
――が、案の定何が書かれているのか全くわからない。
辛うじて、パイナップルの写真が貼られていることから、このマハナの話題であることがわかる。
「ちょっとしか載ってない」
「あー」
新聞紙に占めるその記事の割合は、10分の1にも満たないものだった。
大目に見ても、パイナップルの値上げが各国に注目されているとは言い難い。
「失敗したのか?」
ウル殿下は、少し落ち込んでいるように見えた。
「まだそう決めるのは早いわよ」
私はフォローする。
「新聞って、マスコミだもの。全体的な情報伝達だから。新聞に載ってくれただけマシよ。それよりも大事なのは、口コミ。オーガニックとかそういうのって全部ご婦人たちの間の井戸端会議とかで伝わっていくの。だから、経済的な変化が起こるのはまだまだ先よ」
とは言え、私たちはずっとそれにかまけている場合ではなかった。
あの例の計画を実行する日がやって来たのだ。
マハナは、まず国外輸出するパイナップルを、すべて2倍の価格にすることに決定した。
それらを国内外に向けての声明で発表する。
もちろん、ただ値上げをするわけではない。
声明文には、
「天然物のパイナップル」
という文言が、いくつも散りばめられていた。
人工物と天然物。
私たちが争点にしたい部分はここだった。
上手く行けば、ブローディア国を煽ることが出来れば、まず注目を集めるという第1段階はクリア出来る。
重要なのは、目立つことだ。
マハナ国の行動に全世界が注目すること、そのためには大口を叩くしかない。
ブローディアのパイナップルは人口物で、マハナのパイナップルは天然物。
人口と天然のどっちが良いとかそんなもの私にだってわからないが、少なくともお金持ちは手間暇かけたものによりお金を出す傾向にある。
それを信じて、私たちは大国に向かって牙を向いた。
「……へえ」
公式の声明文を出してから数日後、執務室に届いた大量の新聞を片手に、ウル殿下は独り言を呟いている。
「どうだった?」
私は尋ねた。
「なんて書いてあったの?」
「全然書いてない」
「本当に?」
「なんで俺が嘘つく必要があるんだよ」
私たちが大量に各国の新聞を取り寄せた理由は、数日前に出した声明文の反響を確認するためだ。
世界には約30もの国が存在する。
それに、1国につき1紙なわけがない。
1つの国にはいくつもの新聞が発行されており、それを全部買おうと思えば、とんでもない量になる。
さすがにそんなに買うわけにもいかず、1国最低1紙という配分で購入したものの、それでも30以上はある。
執務室に積み上げられた新聞紙を殿下と私の2人で分け、それらを全部さらう。
正直、こんなもの他の人に任せれば良いと思う。
でも、殿下は自分で全部したいらしい。
私はマハナ語とブローディア語以外で読める言語はなく、それっぽい記事を見つけては辞書で調べるという面倒な作業をする。
その手間のせいで、全然読み進められない。
対してウル殿下は、ほとんどの言語をマスターしているらしい。
さすが第一王子。
「一言も書かれてないわけ?」
私は殿下に近づく。
それは確か、マハナから一番近い国の新聞だ。
「一言も書かれてないわけじゃない。だが、ここ見ろ」
殿下は紙面を叩く。
「どこ?」
「これだ」
私は新聞紙を覗き込んだ。
――が、案の定何が書かれているのか全くわからない。
辛うじて、パイナップルの写真が貼られていることから、このマハナの話題であることがわかる。
「ちょっとしか載ってない」
「あー」
新聞紙に占めるその記事の割合は、10分の1にも満たないものだった。
大目に見ても、パイナップルの値上げが各国に注目されているとは言い難い。
「失敗したのか?」
ウル殿下は、少し落ち込んでいるように見えた。
「まだそう決めるのは早いわよ」
私はフォローする。
「新聞って、マスコミだもの。全体的な情報伝達だから。新聞に載ってくれただけマシよ。それよりも大事なのは、口コミ。オーガニックとかそういうのって全部ご婦人たちの間の井戸端会議とかで伝わっていくの。だから、経済的な変化が起こるのはまだまだ先よ」
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