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第3章

戸惑い

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 ケイキの言う通りにしたのに、何がおかしかったのだろうか。


 結論から言うと、殿下は元の殿下に戻らなかった。


 執着が悪化したわけではないけれど、彼は私の突然の行動の変化に戸惑っているようだ。


「どうしたんだ? マーガレット」

「何が?」

「何か変なものでも食ったのか?」

「食べてないわよ」


 私は気分を害した。

「健全なスキンシップを取ろうとしているだけじゃない」

「健全じゃねぇよ」

「夫婦としてのよ」

「あー……」


 ウル殿下は気まずそうな顔で、首の後ろを片手で掻いた。

「それにしても急すぎるだろ。なんでそう思ったんだ?」

「それはもちろん、夫婦としての関係性を強化するために」

「誰に言われたんだ?」

「……言われてないわよ。ちゃんと自分で考えたわ」


 ケイキの名前を出せば、全くの偶然とは言え殿下に隠れて彼と会ったことがバレてしまうので、私は無断で彼のアイデアを私のものにしてしまった。

「そうか」


 嘘をつくのが苦手な私の様子をじっと見つめる殿下。

 もしや嘘がバレてしまったのかとひやひやしたが、彼の表情からそれを読み取ることが
出来なかった。


「まあ良い。あんたの行動は良い意味で捉えておいて良いってことだな?」

「うん」


私は頷く。

「そういうこと」

「わかった。だが、歯をぶつけるのは辞めてくれ」

「歯をぶつけようとしたわけじゃないわよ。キスをしようとしたの」

「それでも、結果的に歯がぶつかっただろ。あれ、めちゃくちゃ痛いんだぜ」


 それくらいはわかっている。

 私も痛かったし。


「素人がそんなことするな。他は良いけど」

「わかったわ」


 一応は納得してくれたみたいだったが、そんな程度のことで彼の信頼を勝ち取るとは思えなかった。


 相変わらず私は殿下の前でさえ他の男と話すことを禁じられている。

 私は日中殿下の補助として執務室に入り浸っている。


 殿下の仕事はただまつりごとを行うだけではない。


 お偉い人たちと面会したりするのも、彼の業務だった。

 彼らは挨拶や軽い世間話をして楽しんでいる。


 そんな中、私は黙って彼らが会話するのを見ているだけなのだが、それはちょっと気持ち的に辛いものがある。


 私は話すことが得意ではないけど、この数十分の間ただ無言で机を見つめたり資料を呼んだりしているのはきついし、向こうにも気を遣わせるし、何より気まずい。


 どうにかして挨拶くらいはしたい。


 もしかすると、殿下もわざわざ許可を下すほどのことでもないと考えているのかもしれない。

 私が深刻に考えすぎているだけで、殿下の幼い嫉妬心というか、執着心というか。


 案外、

「ケイキと話がしたいんだけど」

 と言っても、

「なんでわざわざ俺に許可を取りに来るんだ?」

 とでも言いそうな雰囲気もあった。


 しかし、もしそう言って、

「もしかして浮気したいのか?」


 なんてわけのわからない結論に至らせてしまえば、せっかくの歩み寄りも無駄になってしまう。


 そっちに捉えられてしまえば、もう詰みだ。












 
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