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第3章
歩み寄り
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私は殿下に歩み寄ることにした。
殿下にどんな過去があろうが、今は私の未来の夫だ。
彼の過去のトラウマを刺激しないで仲良くやっていく方法は、やっぱりケイキの言う通り、私から近寄って親愛を示す必要があると思う。
「おはよう」
殿下の穏やかな一声で、目が覚めた。
彼はいつも私より早く起きる。
「……おはよう」
私は身体を起こす。
腕が痺れているのに気づく。
昨日の夜からずっとウル殿下の腕にしがみついていたみたいだ。
「昨日は可愛かったな」
いつもの調子で、ウル殿下は私を揶揄おうとする。
「俺の腕がそんなに好きなのか?」
「ええ、そうよ」
私は両腕を大きく伸ばした。
眠い。
昨日の夜暑くて眠れなかったせいか、目がシパシパする。
気を抜くと、すぐに目を閉じてしまいそうになる。
この調子で、今日の仕事が出来るだろうか。
「顔洗ってくるわね」
「あ、ああ」
私は洗面台に向かい、顔を洗って歯を磨く。
その最中、殿下の顎が肩に乗る。
「マーガレット、今日は一段と素直だな」
「ふぉうかひら?」
歯磨きをしながら答えた。
「可愛いな、あんた」
彼が私の肩に顔を埋めたので、私は反対の手で彼の頭を撫でた。
「あひがとぉ」
「……」
何か引っかかっているのか、殿下は絶妙に変な顔をしている。
「ほうしひゃの?」
「い、いや。なんでもない」
歯を磨いたら、普段の服に着替える。
「……」
「あの」
召使いのうちの1人が言った。
「なんでしょうか?」
「ウル殿下、ずっと見てらっしゃいますけど」
ウル殿下は、真剣な表情で私の着替えの様子を見つめている。
「気にしないでください。いつものことですから」
私は世話係に向かって言った。
「でも」
2人は困ったような顔をする。
普段の私だと、ここで、
「着替えを覗くなんて最低! 出て行ってください!」
と、殿下を外へ放り出しているのだが、そうしないことに戸惑っているのだろうか。
「大丈夫です。どうぞ、着替えを手伝ってください」
「あ、はい……」
私は寝間着を脱ぎ、下着だけになる。
「……」
ウル殿下は勢いよく立ち上がった。
「殿下?」
私は彼の方を振り向く。
「……先に行く」
彼はこちらの方を見ずに、まっすぐ扉の方へ向かう。
「ちょっと待ってください」
私は慌てて殿下に近寄り、彼の腕を取る。
「ちょ、ちょっと待て。どうした? どうしたんだ? マーガレット。今日はおかしいぞ」
彼の声は、かなり動揺しているように聞こえた。
「何がですか?」
「何がじゃねぇよ。そんな裸同然の恰好で」
「私が着替えようとしているのに、殿下がずっと部屋にいるせいじゃないですか」
殿下の肩を掴み、無理やり彼をこちらに振り向かせる。
ウル殿下は私から顔を背けた。
私は両手でその顔を押さえ込み、自分の方に引き寄せる。
「うぐっ……!」
勢い余って歯と歯が当たる。
「痛っ」
私は小さく叫んで顔を引きはがした。
えっと。
これで、どうすれば良いんだ?
歩み寄りをするにあたって、キスをするのは必然だと思っていた。
だけど、全然ロマンチックにならない。
目を丸くして硬直している彼になんと声をかければ良いか散々考えあぐねて、ようやく出した答えは、
「行ってらっしゃい」
だった。
殿下にどんな過去があろうが、今は私の未来の夫だ。
彼の過去のトラウマを刺激しないで仲良くやっていく方法は、やっぱりケイキの言う通り、私から近寄って親愛を示す必要があると思う。
「おはよう」
殿下の穏やかな一声で、目が覚めた。
彼はいつも私より早く起きる。
「……おはよう」
私は身体を起こす。
腕が痺れているのに気づく。
昨日の夜からずっとウル殿下の腕にしがみついていたみたいだ。
「昨日は可愛かったな」
いつもの調子で、ウル殿下は私を揶揄おうとする。
「俺の腕がそんなに好きなのか?」
「ええ、そうよ」
私は両腕を大きく伸ばした。
眠い。
昨日の夜暑くて眠れなかったせいか、目がシパシパする。
気を抜くと、すぐに目を閉じてしまいそうになる。
この調子で、今日の仕事が出来るだろうか。
「顔洗ってくるわね」
「あ、ああ」
私は洗面台に向かい、顔を洗って歯を磨く。
その最中、殿下の顎が肩に乗る。
「マーガレット、今日は一段と素直だな」
「ふぉうかひら?」
歯磨きをしながら答えた。
「可愛いな、あんた」
彼が私の肩に顔を埋めたので、私は反対の手で彼の頭を撫でた。
「あひがとぉ」
「……」
何か引っかかっているのか、殿下は絶妙に変な顔をしている。
「ほうしひゃの?」
「い、いや。なんでもない」
歯を磨いたら、普段の服に着替える。
「……」
「あの」
召使いのうちの1人が言った。
「なんでしょうか?」
「ウル殿下、ずっと見てらっしゃいますけど」
ウル殿下は、真剣な表情で私の着替えの様子を見つめている。
「気にしないでください。いつものことですから」
私は世話係に向かって言った。
「でも」
2人は困ったような顔をする。
普段の私だと、ここで、
「着替えを覗くなんて最低! 出て行ってください!」
と、殿下を外へ放り出しているのだが、そうしないことに戸惑っているのだろうか。
「大丈夫です。どうぞ、着替えを手伝ってください」
「あ、はい……」
私は寝間着を脱ぎ、下着だけになる。
「……」
ウル殿下は勢いよく立ち上がった。
「殿下?」
私は彼の方を振り向く。
「……先に行く」
彼はこちらの方を見ずに、まっすぐ扉の方へ向かう。
「ちょっと待ってください」
私は慌てて殿下に近寄り、彼の腕を取る。
「ちょ、ちょっと待て。どうした? どうしたんだ? マーガレット。今日はおかしいぞ」
彼の声は、かなり動揺しているように聞こえた。
「何がですか?」
「何がじゃねぇよ。そんな裸同然の恰好で」
「私が着替えようとしているのに、殿下がずっと部屋にいるせいじゃないですか」
殿下の肩を掴み、無理やり彼をこちらに振り向かせる。
ウル殿下は私から顔を背けた。
私は両手でその顔を押さえ込み、自分の方に引き寄せる。
「うぐっ……!」
勢い余って歯と歯が当たる。
「痛っ」
私は小さく叫んで顔を引きはがした。
えっと。
これで、どうすれば良いんだ?
歩み寄りをするにあたって、キスをするのは必然だと思っていた。
だけど、全然ロマンチックにならない。
目を丸くして硬直している彼になんと声をかければ良いか散々考えあぐねて、ようやく出した答えは、
「行ってらっしゃい」
だった。
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