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第3章
ケイキ
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「ひ、久しぶりですね……」
「お久しぶりです」
2人の間に、気まずい空気が流れ込む。
何も悪い事してないのに、何かしでかしてしまったような気分だった。
「マーガレット様」
と、ケイキが言った。
「お元気でしたか?」
「ええ」
私は返事をする。
「元気です。ケイキさんは?」
「私も、元気です」
「それは良かった」
しばし私たちは無言でお互いの顔を見つめあった。
久しぶりに会うから、何を話せば良いかわからない。
こんな場面をウル殿下に見られようものなら、絶対に変な誤解をされる。
かといって、ウル殿下のために、ケイキのことを無視するのも、あまりにも失礼な気がした。
「その」
ケイキは口を開いた。
「今は、何をしようと?」
「あー、えっと。喉が乾いたので。水をもらいに行こうと思いまして」
「あっ、そうなんですか」
「ケイキさんは?」
「僕は仕事です」
彼は力なく笑った。
「それは……。夜遅くまでお疲れ様です」
「マーガレット様から直々にそう言っていただけて、とても嬉しく思います」
では、とケイキは頭を下げ、私の横を通り過ぎようとした。
私は彼を呼び止める。
「すみません」
「はい。どうされましたか?」
「えっとですね」
私はなんて言えば良いのかわからず、口の中を少しモゴモゴと動かしたのち、尋ねた。
「ケイキさんもおわかりかと思うんですけど、最近殿下の様子がおかしくて」
「あー……」
「どうすれば良いのかとずっと考えていたんですけど。相談出来る誰ががおらず」
私が名前を知っているのは、ウル殿下が問題としているケイキとアオだけだ。
私と関わりのある人物は、彼ら以外では召使いたちもいるが、私たちのことに関して色々期待しているような彼女たちに、そんな相談など持ちかけられるはずもなかった。
「正直鬱陶しくて。どうしたら、元の殿下に戻ってくれるのかと」
「そうですね……」
ケイキは虚空を見つめて、少しの間考えている様子を見せた。
「良い意味で考えるなら、ウル殿下があなた様のことを、ちゃんと妻として見るようになった、と言えるでしょうが」
「それだけなら良いんですけど、ずっと嫌味を言うんですね」
自分が全部決めたことなのに、ウル殿下はケイキやアオの名前を頻繁に出す。
まるで、全部私が悪いみたいに。
「男女の仲のことを、僕にちゃんと答えられるかどうかはわかりませんが」
ケイキは前置きをした上で、続けた。
「話を聞く限り、問題なのは愛情表現の不足ではないでしょうか?」
「愛情表現?」
「殿下がマーガレット様に対して、何かモーションを行っていることは知っているのですが、マーガレット様が殿下に対して、何か行動を起こしたことはありますか?」
「行動……?」
私は首を傾げる。
「マーガレット様から殿下へ、積極的な行動をしてみるというのはいかがでしょうか? 例えば、自分から手を繋いだり、抱きついたり、など」
「それで」
それで、本当に何かが変わるというのだろうか。
ケイキは説明してくれた。
「おそらくですが、殿下は不安に思われているのだと思います。自分だけが相手のことを想っているのではないか、と。そこでマーガレット様が積極的になれば、ウル殿下は安心されて、過剰な執着心を減らすのではないでしょうか?」
「お久しぶりです」
2人の間に、気まずい空気が流れ込む。
何も悪い事してないのに、何かしでかしてしまったような気分だった。
「マーガレット様」
と、ケイキが言った。
「お元気でしたか?」
「ええ」
私は返事をする。
「元気です。ケイキさんは?」
「私も、元気です」
「それは良かった」
しばし私たちは無言でお互いの顔を見つめあった。
久しぶりに会うから、何を話せば良いかわからない。
こんな場面をウル殿下に見られようものなら、絶対に変な誤解をされる。
かといって、ウル殿下のために、ケイキのことを無視するのも、あまりにも失礼な気がした。
「その」
ケイキは口を開いた。
「今は、何をしようと?」
「あー、えっと。喉が乾いたので。水をもらいに行こうと思いまして」
「あっ、そうなんですか」
「ケイキさんは?」
「僕は仕事です」
彼は力なく笑った。
「それは……。夜遅くまでお疲れ様です」
「マーガレット様から直々にそう言っていただけて、とても嬉しく思います」
では、とケイキは頭を下げ、私の横を通り過ぎようとした。
私は彼を呼び止める。
「すみません」
「はい。どうされましたか?」
「えっとですね」
私はなんて言えば良いのかわからず、口の中を少しモゴモゴと動かしたのち、尋ねた。
「ケイキさんもおわかりかと思うんですけど、最近殿下の様子がおかしくて」
「あー……」
「どうすれば良いのかとずっと考えていたんですけど。相談出来る誰ががおらず」
私が名前を知っているのは、ウル殿下が問題としているケイキとアオだけだ。
私と関わりのある人物は、彼ら以外では召使いたちもいるが、私たちのことに関して色々期待しているような彼女たちに、そんな相談など持ちかけられるはずもなかった。
「正直鬱陶しくて。どうしたら、元の殿下に戻ってくれるのかと」
「そうですね……」
ケイキは虚空を見つめて、少しの間考えている様子を見せた。
「良い意味で考えるなら、ウル殿下があなた様のことを、ちゃんと妻として見るようになった、と言えるでしょうが」
「それだけなら良いんですけど、ずっと嫌味を言うんですね」
自分が全部決めたことなのに、ウル殿下はケイキやアオの名前を頻繁に出す。
まるで、全部私が悪いみたいに。
「男女の仲のことを、僕にちゃんと答えられるかどうかはわかりませんが」
ケイキは前置きをした上で、続けた。
「話を聞く限り、問題なのは愛情表現の不足ではないでしょうか?」
「愛情表現?」
「殿下がマーガレット様に対して、何かモーションを行っていることは知っているのですが、マーガレット様が殿下に対して、何か行動を起こしたことはありますか?」
「行動……?」
私は首を傾げる。
「マーガレット様から殿下へ、積極的な行動をしてみるというのはいかがでしょうか? 例えば、自分から手を繋いだり、抱きついたり、など」
「それで」
それで、本当に何かが変わるというのだろうか。
ケイキは説明してくれた。
「おそらくですが、殿下は不安に思われているのだと思います。自分だけが相手のことを想っているのではないか、と。そこでマーガレット様が積極的になれば、ウル殿下は安心されて、過剰な執着心を減らすのではないでしょうか?」
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