30 / 86
第2章
夜
しおりを挟む
その夜、ウル殿下はいつものように私の髪を弄んだり、抱きしめてくることもなく、即ベッドに潜り込んで、私に背を向けた。
厳しい顔で目をつぶった彼に向かい、私は声をかける。
「嫉妬したの?」
「……うるさい」
ウル殿下は、低くくぐもった声を出した。
私も彼の隣で横になり、殿下の方に身体を向ける。
「ねえ、殿下」
「……」
ウル殿下は何も言わない。
仕方がないので、私は彼の肩を軽く叩いた。
「殿下」
「……」
「殿下ぁ」
「……」
「でーんか」
「……」
「でん」
「あー、もう。うるさい」
殿下は私の手を掴み、引っ張った。
私の身体が浮き、彼は両腕を使って私を自分の側に持っていく。
そのまま、私の頭の下に腕を差し込んだ。
殿下の筋肉質な腕から、彼の体温が伝わる。
「マーガレット」
眠そうな声で殿下は言った。
「あんたは俺のものだ」
「……うん」
「で、俺はあんたのものだ。俺たちはこれから結婚する。もちろん王子と王子妃として、未来の国王夫妻として。だが、それ以前に俺たちは夫婦じゃなきゃいけない」
「うん」
「もし王子とその妻という関係性だけだったら、俺は今ここであんたを犯して子どもを孕ませることだって出来る。だが、それじゃ駄目なんだ。ちゃんと愛し合う夫婦じゃなきゃ」
殿下は私の身体を胸に押しつけた。
もう片方の手が、私の腰に回される。
彼の分厚い胸板から、心臓の鼓動が聞こえる。
「ごめんなさい」
私はそう言って、ウル殿下の背中に手を回した。
彼の背中は大きく、手が届かない。
「ごめんね、殿下」
ウル殿下は震えていた。
「明日は」
殿下は小さな声で言った。
「俺の公務についてくれ」
「うん」
「ずっと傍にいてくれ」
「わかった」
「……俺が嫌か?」
「なんで?」
「女々しいだろ?」
殿下は自嘲するように軽く笑った。
「嫌なんだよ、俺。あんたが他の男の方を見るのでさえ」
「私のこと好きなの?」
「知らねぇよーーでも、もしあんたに裏切られたら、俺は多分生きていけない。無理だ」
「そっか」
「だから、ここにいてくれ。俺を捨てないでくれ」
彼はそう言って、私の額に軽く唇を当てた。
「ここにいていいの?」
「ああ」
もう殿下は何も言わなくなった。
もしかして、眠ったのかもしれない。
私は殿下の心臓の音を聞きながら、生まれて初めて安心感に包まれた。
厳しい顔で目をつぶった彼に向かい、私は声をかける。
「嫉妬したの?」
「……うるさい」
ウル殿下は、低くくぐもった声を出した。
私も彼の隣で横になり、殿下の方に身体を向ける。
「ねえ、殿下」
「……」
ウル殿下は何も言わない。
仕方がないので、私は彼の肩を軽く叩いた。
「殿下」
「……」
「殿下ぁ」
「……」
「でーんか」
「……」
「でん」
「あー、もう。うるさい」
殿下は私の手を掴み、引っ張った。
私の身体が浮き、彼は両腕を使って私を自分の側に持っていく。
そのまま、私の頭の下に腕を差し込んだ。
殿下の筋肉質な腕から、彼の体温が伝わる。
「マーガレット」
眠そうな声で殿下は言った。
「あんたは俺のものだ」
「……うん」
「で、俺はあんたのものだ。俺たちはこれから結婚する。もちろん王子と王子妃として、未来の国王夫妻として。だが、それ以前に俺たちは夫婦じゃなきゃいけない」
「うん」
「もし王子とその妻という関係性だけだったら、俺は今ここであんたを犯して子どもを孕ませることだって出来る。だが、それじゃ駄目なんだ。ちゃんと愛し合う夫婦じゃなきゃ」
殿下は私の身体を胸に押しつけた。
もう片方の手が、私の腰に回される。
彼の分厚い胸板から、心臓の鼓動が聞こえる。
「ごめんなさい」
私はそう言って、ウル殿下の背中に手を回した。
彼の背中は大きく、手が届かない。
「ごめんね、殿下」
ウル殿下は震えていた。
「明日は」
殿下は小さな声で言った。
「俺の公務についてくれ」
「うん」
「ずっと傍にいてくれ」
「わかった」
「……俺が嫌か?」
「なんで?」
「女々しいだろ?」
殿下は自嘲するように軽く笑った。
「嫌なんだよ、俺。あんたが他の男の方を見るのでさえ」
「私のこと好きなの?」
「知らねぇよーーでも、もしあんたに裏切られたら、俺は多分生きていけない。無理だ」
「そっか」
「だから、ここにいてくれ。俺を捨てないでくれ」
彼はそう言って、私の額に軽く唇を当てた。
「ここにいていいの?」
「ああ」
もう殿下は何も言わなくなった。
もしかして、眠ったのかもしれない。
私は殿下の心臓の音を聞きながら、生まれて初めて安心感に包まれた。
0
お気に入りに追加
646
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる