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第2章
資料探し
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私はケイキに教わりながら、一日中机にかじりついていた。
数学はもちろんのこと、資料の記入方法などを叩き込まれ、私の頭は普段以上にオーバーヒートする。
この世の地獄かと思うくらいに、ひたすら仕事に取り組んだあとは、図書館で参考文献を探す。
「こういうものは本当に何を質問されるかわからないので、きっちりと調べあげましょう」
と、ケイキが疲れ切った表情で言った。
「前例があれば、マーガレット様の素晴らしい意見も、さらに強度が上がります。頭のお堅い連中に、重箱の隅をつつくようなことはされません」
だが、いくら探しても図書館では見つけることが出来なかった。
「ないんじゃないですかね……?」
私はチカチカする目を押さえながら、ケイキに向かって言った。
彼は分厚い本を枕にして、ものすごい形相でページをめくっている。
「いえ、探しましょう」
「でも、」
私は言う。
「経済の項目にはありませんでしたよ」
「経済になくとも、小説、地理、政治に至るまで、あらゆる分野の本から出てくるかもしれません」
確かにそうなんだけど。
私は目頭を強く押さえる。
確かにそうなんだけど。
そんなこと言い出したら、すべての本を片っ端から読んでも間に合わないだろう。
あーあ。
何で私、魔法使えないんだろう。
使えたらこんな作業すぐ短縮出来るだろうにと思ったが、もしそうだったら今私はここにはいないだろうと思い直した。
「じゃあせめて、休憩にしませんか?」
私は提案する。
「集中力が持ちませんよ」
「なら、マーガレット様だけでも」
「いえ、それは出来ません。それにケイキさん、昨日だって一睡もしていないのでしょう? いい加減寝ないと、身体を壊してしまいますよ」
「でも、仮眠して集中力が途切れたらと思うと、今のうちに全て終わってしまえば、あとはゆっくり楽が出来ますから」
彼の姿に既視感を覚える。
そうだ。
社畜だ。
「だから大丈夫です。マーガレット様、先にお休みください」
「いえ、大丈夫です。……早く、終わらせましょう」
さすがにケイキに仕事をさせたままで1人だけ休めるほど、私の心臓には毛が生えていない。
結局2人でほとんど言葉を発さないまま、ページをめくり続け、夜になった。
「おっ、お疲れ様。出来たか?」
欲しい資料を見つけることが出来ず、2人して天を仰ぎ見ていると、公務が終わったのだろう、随分と元気そうなウル殿下が、図書館にやって来た。
「はい、一応資料は」
消え入りそうな声で、ケイキは報告する。
「資料は?」
「提出分は。ただ、前例はまだ見つかっていません」
「そっか。じゃあ、明日頑張ってくれ」
屈託のない笑顔を向けられ、私は久しぶりにこの男をぶん殴ってやろうと思った。
数学はもちろんのこと、資料の記入方法などを叩き込まれ、私の頭は普段以上にオーバーヒートする。
この世の地獄かと思うくらいに、ひたすら仕事に取り組んだあとは、図書館で参考文献を探す。
「こういうものは本当に何を質問されるかわからないので、きっちりと調べあげましょう」
と、ケイキが疲れ切った表情で言った。
「前例があれば、マーガレット様の素晴らしい意見も、さらに強度が上がります。頭のお堅い連中に、重箱の隅をつつくようなことはされません」
だが、いくら探しても図書館では見つけることが出来なかった。
「ないんじゃないですかね……?」
私はチカチカする目を押さえながら、ケイキに向かって言った。
彼は分厚い本を枕にして、ものすごい形相でページをめくっている。
「いえ、探しましょう」
「でも、」
私は言う。
「経済の項目にはありませんでしたよ」
「経済になくとも、小説、地理、政治に至るまで、あらゆる分野の本から出てくるかもしれません」
確かにそうなんだけど。
私は目頭を強く押さえる。
確かにそうなんだけど。
そんなこと言い出したら、すべての本を片っ端から読んでも間に合わないだろう。
あーあ。
何で私、魔法使えないんだろう。
使えたらこんな作業すぐ短縮出来るだろうにと思ったが、もしそうだったら今私はここにはいないだろうと思い直した。
「じゃあせめて、休憩にしませんか?」
私は提案する。
「集中力が持ちませんよ」
「なら、マーガレット様だけでも」
「いえ、それは出来ません。それにケイキさん、昨日だって一睡もしていないのでしょう? いい加減寝ないと、身体を壊してしまいますよ」
「でも、仮眠して集中力が途切れたらと思うと、今のうちに全て終わってしまえば、あとはゆっくり楽が出来ますから」
彼の姿に既視感を覚える。
そうだ。
社畜だ。
「だから大丈夫です。マーガレット様、先にお休みください」
「いえ、大丈夫です。……早く、終わらせましょう」
さすがにケイキに仕事をさせたままで1人だけ休めるほど、私の心臓には毛が生えていない。
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「はい、一応資料は」
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「資料は?」
「提出分は。ただ、前例はまだ見つかっていません」
「そっか。じゃあ、明日頑張ってくれ」
屈託のない笑顔を向けられ、私は久しぶりにこの男をぶん殴ってやろうと思った。
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