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第2章

戦略

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「……は?」


 ウル殿下は、私の身体を腕で抑え込んだまま、固まっている。


「まだわからない?」

「いや、そういうわけじゃないが」


 私を離すことなく、そのまま肩に顎を乗せた。


「うーん、いや。……なるほどな。その発想はなかった」


 ウル殿下は、私の肩を顎でぐりぐりと抉る。

 結構痛い。


「殿下、痛いんだけど」

「うるさい」


 私は身体を捩じって抵抗しようとするが、殿下はさらに力を入れて腕を強化した。


「マーガレット、あんたは賢いんだな」


 意外と、と言わないあたりがウル殿下の良いところだと思う。


「別に普通よ」

「いや、そこは肯定しろよ。じゃないと、俺の立つ瀬がない――ともかくあんたは次の王侯会議に出てくれないか? 会議ではおそらく結婚式についての議題も出るだろう。それで、さっきの案をわかりやすいようにきちんと説明してくれ」

「は?」


 私は大きく首を横に振った。


「いや、無理でしょ。だって私まだ、この国の人間じゃないし。よそ者なのよ。そんなやつがしゃしゃり出たら、面倒に思う人も出るでしょ?」

「それは、俺が先に口出ししておく。それに、結婚式はあんたにも関係があることだ。ほかの連中がとやかく言う前に、先手を打つことは出来る」

「……もしかしてさ、私の言った案を通すつもり?」

「ああ。そうに決まっているだろう」


 私は困惑した。


「さっきのは、ただのアイデアなのよ? 実際の数字が出せるわけじゃないわ」

「だが、あんたは腐ってもブローディアの姫だぜ。ブローディアの金持ち連中のことに関しては、よくわかっているだろう」

「まあ、それは……」


 先ほどの意見は、適当に言ったわけではない。

 ブローディアに住む人々は、お金があればあるほど、身の回りの物や食料にお金をかけている印象があった。

 特に魔法や農薬を使わない天然食品が重要視され、暇なマダムたちは井戸端会議で、やれどこの国のものが良いだの、健康になるだのと不毛な議論を交わしていたのだ。

 正直それが滑稽ではあったが、自身の家の給料や地位をひけらかすための1つの指標として、生活の質が挙げられていたのだろうと思っている。


「大国ブローディアの王女であるあんたが提案してくれれば、口うるさい連中も黙るだろう」

「細かい部分はどうするの?」

「その辺は後で決める」


 ウル殿下はようやく私を解放した。

 ようやく自由になると立ち上がったのもつかの間、私の両脇に手を差し込み、持ち上げる。


「ちょっと」

「あんたが嫁いできてくれて良かった」

「私、子どもじゃないのよ」

「でも、俺よりは年下だ」


 ウル殿下は、まるで子どもをあやすかのように私を抱き上げ、ベッドに降ろした。


「それじゃ、さっそく仕事に取り掛かるから。俺は執務室に行く」

「もう夜遅いわよ」

「大丈夫だ。あんたはもう寝ろ。じゃあな、お休み」


 彼は至極楽しげな表情で、私に軽く手を振って部屋を去った。


「お、お休み……」


 しばらくあっけに取られていた私がようやく口にしたのはその言葉で、きっと彼は聞いていないだろう。


 まあ、なんていうか。


 私は思った。


 機嫌が元に戻って良かった。 
 
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