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第1章

部屋

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「ふう……」


  私は思わずため息をついた。


  わかっていたことだが、やはり気の張る行事だった。

  荷物を売る殿下の部屋に置いたあと、私は召使二人に連れられて王宮の案内を受けた。


  端的に言うと、部屋数が多い。


  一生かけても使わなさそうないくつもの部屋にはそれぞれ名前がつけられており、厨房や食堂、図書館ならまだ覚えられるが、なぜ応接間が11部屋もあるのだろうか。

  失礼だが、そんなに客は来るのか。

  それに、あんな巨大な大浴場を作って無駄にはならないのだろうか。しかも、そこは王族専用らしい。


  ……いや、落ち着こう。


  私は首を左右に振った。


  これから先、私はここで一生を過ごすんだ。

  美しさと機能性の乖離くらいは慣れなければ。


  私はベッドに腰かける。


  召使曰く、国王夫妻やその他の王族への挨拶は明日で良いらしい。

  それは長旅で疲れた私にはとてもありがたい申し入れだったので、受け入れさせてもらった。

  彼女たちはどうも優秀らしく、常に私の少し後ろを歩き、洗練された動きで扉を開け、視界に入らないように姿を消すことを徹底して行っていた。

  距離感的に仲良くなれるかわからないのが少し悲しいが、ともかくとして概ね満足な対応。

  しかし、一番引っかかるのは風呂である。

  風呂に入る時間が決まっているのはわかる。獅子像の口からお湯が出るあの大浴場を使えるのが王族のみであるとはいえ、同じ時間帯に風呂に入るわけにはいかないからだ。


  だが、なぜ彼女たちに私が身体を清めてもらう必要がある。


  私は別に一人でも身体を洗えるのに。


  だがまたここでその疑問をぶつければ、変に誤解されるような気がしたので、私は黙って彼女たちのなすがままにされた。

  そうしてウル殿下の部屋に戻り、

「私たちはここには入れませんので。失礼いたします」

  と言った彼女たちにお礼をして、私はようやく一人になった。


  さて、これからどうしようか。


  私は考える。


  一応ここはウル殿下の部屋だ。私が好きにしていいはずはないから、自分の荷物を開けることさえ躊躇してしまう。


  それにしても、どうなんだろうか。


  ウル殿下は忙しそうだ。だからこそ、彼はきっと一人の時間が必要だろう。それなのに、いつまでも私が彼の部屋にいるわけにはいかない。


  ガチャ。


  扉を開く音が聞こえた。

  私は思わず振り返る。

  すると、こそばゆそうな顔をしたウル殿下が入ってきていた。彼も風呂上がりなのだろう。上等なシルクのローブを纏っている。

「あ、あのさ……。先、風呂入ったんだな」

  彼は頭をガシガシと擦りながら言った。

「ええ。お世話係の方々に手伝ってもらって」

「そ、そうか……」

  ウル殿下はなおも気まずそうに歩き、そして私の隣に座った。
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