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第1章
マハナの衛兵①
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「ちょっとウル殿下、あなたの世話係の俺の身にもなってくださいよ。後で怒られるの、俺なんですからねって……えっ!?」
ウル殿下の付き人らしき若い衛兵は、初めて私の姿を目視したようだ。
「あれ、その小さい子どもは一体どこから……。ってもしかして、ウル殿下。結婚したくないからってそんな子どもにまで手を出すつもりですか!? 駄目ですよ、堪えてください! あなたの結婚はこの国で今一番大事なものなんですから」
子ども……。
「なんのことかさっぱりだ」
ウル殿下は嘯く。が、この男がこの日が来るまでにやってきたのだろう様々な行いのことを考え、私は嘆息した。
「さあマーガレット王女、王宮へ参りましょう」
うやうやしくウル殿下は私に頭を下げ、手を差し出す。
さっきとは打って変わった白々しい態度に苦笑しつつ、私はその手を取った。
「えっ、お、王女…?」
「お前が俺の妻になる人に言った侮辱は、第一王子の特権で特別に許してやろう」
衛兵は目をぱちくりさせて私を見つめ、頭を床に叩きつけんばかりに勢いよく下げた。
「すみませんでした! 王女様だと全く気づかず、大変失礼しました!」
私はクスクス笑って許した。
「大丈夫ですよ、気にしないでください」
この腹立つ男の方が、私に散々失礼なことをしでかしているからな。
「で、彼女の荷物は?」
「あ、はい! 大丈夫です。持ってます!」
衛兵が腕を持ち上げると、そこには私の置いてきた旅行鞄があった。
なるほど。私に荷物の心配がいらないと言ったのは、衛兵が代わりに回収してくれていたからか。
抜け目ないウル殿下の行動に驚きつつも、少し心配になって私は言う。
「あの、自分で荷物は持ちますので。お気になさらず」
「え!?」
衛兵は大きな声を出した。大きな目がさらに大きくなる。
「あ、あの……。もしかして、お嫌でしたでしょうか?」
衛兵は恐る恐るといったふうにそう言う。
「えっ」
「ああ、ああ。いい。気にすんな」
ウル殿下は私の方を見る。
「奴はこういう人間だ。別に荷物を取られるなんてことはないぜ」
「そ、そうは思っていませんが」
「それに、マーガレット。あんたが荷物を持ってちんたら歩いたら、王宮へ行くのが遅くなるだろ? それ持って走ったり出来るか? また俺がおんぶしてやろうか?」
ウル殿下は私の荷物を指さす。
人前でおんぶは嫌だ。
すぐさま首を横に振った。
「それはちょっと」
「人の助けはきちんと受けた方がいい。この国ではそうだ」
私は了承の意を示すために頷いた。
この男が言うのなら、そうなのだろう。
この国では、それが普通なのだ。
突然、ウル殿下に肩を叩かれた。
「ちょっと」
「何?」
ウル殿下が何かしたのか、衛兵は後ろの声が聞こえない立ち位置まで下がっていたので、遠慮なく砕けた言い方をする。
「さっきのは駄目だ」
「何が駄目だったのよ」
「あのな」
ウル殿下は言いにくそうに、端正な顔を顰めた。
「あんたはブローディア出身で、一応そこの王族なんだ。その人間がこの国に与える影響を考えて欲しい」
私は少し考えた。
「……もしかしてあの人、私がこの国の人たちを蔑んでいると思っていたの? だから私が荷物を持つなと言ったと思っているの?」
「そこまでは言っていない。でも、この国にあるブローディアへの畏怖が根強くあるのは事実なんだ」
荷物一つでもそうだと言うのか。
「まあ、奴は気にしすぎる節がある。次から気をつけてやってくれよ」
私はウル殿下の言い回しに、心底びっくりする。
「家来の性格も把握して助け舟を出すんだ、この国の王族は。凄いわ」
「……あんた、一体どういう国からやって来たんだよ」
呆れ返ったような声に、私は心の中で答えた。
自分の親族を虐待するような国からよ。
ウル殿下の付き人らしき若い衛兵は、初めて私の姿を目視したようだ。
「あれ、その小さい子どもは一体どこから……。ってもしかして、ウル殿下。結婚したくないからってそんな子どもにまで手を出すつもりですか!? 駄目ですよ、堪えてください! あなたの結婚はこの国で今一番大事なものなんですから」
子ども……。
「なんのことかさっぱりだ」
ウル殿下は嘯く。が、この男がこの日が来るまでにやってきたのだろう様々な行いのことを考え、私は嘆息した。
「さあマーガレット王女、王宮へ参りましょう」
うやうやしくウル殿下は私に頭を下げ、手を差し出す。
さっきとは打って変わった白々しい態度に苦笑しつつ、私はその手を取った。
「えっ、お、王女…?」
「お前が俺の妻になる人に言った侮辱は、第一王子の特権で特別に許してやろう」
衛兵は目をぱちくりさせて私を見つめ、頭を床に叩きつけんばかりに勢いよく下げた。
「すみませんでした! 王女様だと全く気づかず、大変失礼しました!」
私はクスクス笑って許した。
「大丈夫ですよ、気にしないでください」
この腹立つ男の方が、私に散々失礼なことをしでかしているからな。
「で、彼女の荷物は?」
「あ、はい! 大丈夫です。持ってます!」
衛兵が腕を持ち上げると、そこには私の置いてきた旅行鞄があった。
なるほど。私に荷物の心配がいらないと言ったのは、衛兵が代わりに回収してくれていたからか。
抜け目ないウル殿下の行動に驚きつつも、少し心配になって私は言う。
「あの、自分で荷物は持ちますので。お気になさらず」
「え!?」
衛兵は大きな声を出した。大きな目がさらに大きくなる。
「あ、あの……。もしかして、お嫌でしたでしょうか?」
衛兵は恐る恐るといったふうにそう言う。
「えっ」
「ああ、ああ。いい。気にすんな」
ウル殿下は私の方を見る。
「奴はこういう人間だ。別に荷物を取られるなんてことはないぜ」
「そ、そうは思っていませんが」
「それに、マーガレット。あんたが荷物を持ってちんたら歩いたら、王宮へ行くのが遅くなるだろ? それ持って走ったり出来るか? また俺がおんぶしてやろうか?」
ウル殿下は私の荷物を指さす。
人前でおんぶは嫌だ。
すぐさま首を横に振った。
「それはちょっと」
「人の助けはきちんと受けた方がいい。この国ではそうだ」
私は了承の意を示すために頷いた。
この男が言うのなら、そうなのだろう。
この国では、それが普通なのだ。
突然、ウル殿下に肩を叩かれた。
「ちょっと」
「何?」
ウル殿下が何かしたのか、衛兵は後ろの声が聞こえない立ち位置まで下がっていたので、遠慮なく砕けた言い方をする。
「さっきのは駄目だ」
「何が駄目だったのよ」
「あのな」
ウル殿下は言いにくそうに、端正な顔を顰めた。
「あんたはブローディア出身で、一応そこの王族なんだ。その人間がこの国に与える影響を考えて欲しい」
私は少し考えた。
「……もしかしてあの人、私がこの国の人たちを蔑んでいると思っていたの? だから私が荷物を持つなと言ったと思っているの?」
「そこまでは言っていない。でも、この国にあるブローディアへの畏怖が根強くあるのは事実なんだ」
荷物一つでもそうだと言うのか。
「まあ、奴は気にしすぎる節がある。次から気をつけてやってくれよ」
私はウル殿下の言い回しに、心底びっくりする。
「家来の性格も把握して助け舟を出すんだ、この国の王族は。凄いわ」
「……あんた、一体どういう国からやって来たんだよ」
呆れ返ったような声に、私は心の中で答えた。
自分の親族を虐待するような国からよ。
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