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第4章
違和感
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俺は人に謝るのが苦手だ。
もしかすると大抵の人がそうなのかもしれないが、ほとんど赤の他人に謝るという行為は、自分の弱点を晒しているようで本当に嫌な気持ちになる。
言うまでもなく、今回のは俺が悪い。
結果的に生徒に暴力を振るったからだ。
きっと本当に凄い人は、すぐにでもその人たちに頭を下げ、怒られたら怒られたで、上手くその怒りを自分なりに受け止め次に生かすのだろう。
俺はそこまで器用でいられない。
怒りの矛先をこちら側に向けられたが最後、その相手を全否定するか怒りと悪意を全て受け止めてしまって死にたくなるかのどっちかだ。
きっと俺たち教師は、社会でどうやって生きていかなきゃいけないのかということも、生徒たちに教えなければいけないのだろう。
勉学や実技、道徳だけでなく、お金の使い方、人間関係の構築方法、上手く距離感を保てる方法、凡ミスをしない方法……。
こういうことを考えると、俺は教師に向いていないんじゃないかと、ふと思ってしまう。
考えるにつれて俺は人格者でないと思えてくるし、なんならそれは主観的でなく、客観的な見方であるとも思える。
そんなことをボヤボヤと頭の中に溜め込みながら、俺は腹を据えて学園の通信機から、モーガン家分家に連絡を入れた。
心配事の九割が杞憂ということわざがある。
ニッポンとはまた違う国(名前を忘れてしまったが)で生まれた言葉らしく、その由来は、とある人の心配事が多すぎてどうだこうだという、勇者録に記載された、勇者が今までどんな言葉を話してきたかというマイナー中のマイナーな古文書の端っこに記載された話で、俺も何書いていたかほとんど覚えていないが、その「杞憂」という単語は妙に癖になり、辛いことや心配事があると、いつもそんなことわざを思い出す。
今回も、俺が思っていた最悪の状況は避けられた。
それは幸なのか不幸なのか、恐らく全体としては若干不幸寄りの結果ではあるが、俺の臆病で弱々しい部分にとっては、正直助かったという言葉しか出ない。
ダニエル・モーガンの両親は、自分の息子に無関心だった。
俺が、
「申し訳ありませんでした」
と電話越しで謝ると、ひとしきり嫌味を言った後、
「では、また次気を付けてくれれば」
と面倒になったのか、そう言ってすぐに受話器を置く音が聞こえた。
圧倒的に俺が悪い局面で随分寛大な措置である。
由緒正しきモーガン家からすれば、ぽっと出の孤児の教師など簡単に捻りつぶしてしまうだろう。
そんなことをしようという素振りも見せなかったのは、俺にとっては幸運だった。
だが、それが全体的に良いことではないというのは明白だ。
ダニエルの両親は俺に嫌味を言うだけ言ったが、これは俺の教師としての自覚を問うものだった。
どういう経緯で、一体どんなふうにダニエルに対して魔法を使ったのか、普通の親ならそれくらい気にはなるだろう。
何の質問もなく、
「あなたは本当に素晴らしい教育者ですね」
という皮肉を吐くだけで終わった電話は、モーガン家の、いや貴族社会の気味の悪さを描いていた。
もしかすると大抵の人がそうなのかもしれないが、ほとんど赤の他人に謝るという行為は、自分の弱点を晒しているようで本当に嫌な気持ちになる。
言うまでもなく、今回のは俺が悪い。
結果的に生徒に暴力を振るったからだ。
きっと本当に凄い人は、すぐにでもその人たちに頭を下げ、怒られたら怒られたで、上手くその怒りを自分なりに受け止め次に生かすのだろう。
俺はそこまで器用でいられない。
怒りの矛先をこちら側に向けられたが最後、その相手を全否定するか怒りと悪意を全て受け止めてしまって死にたくなるかのどっちかだ。
きっと俺たち教師は、社会でどうやって生きていかなきゃいけないのかということも、生徒たちに教えなければいけないのだろう。
勉学や実技、道徳だけでなく、お金の使い方、人間関係の構築方法、上手く距離感を保てる方法、凡ミスをしない方法……。
こういうことを考えると、俺は教師に向いていないんじゃないかと、ふと思ってしまう。
考えるにつれて俺は人格者でないと思えてくるし、なんならそれは主観的でなく、客観的な見方であるとも思える。
そんなことをボヤボヤと頭の中に溜め込みながら、俺は腹を据えて学園の通信機から、モーガン家分家に連絡を入れた。
心配事の九割が杞憂ということわざがある。
ニッポンとはまた違う国(名前を忘れてしまったが)で生まれた言葉らしく、その由来は、とある人の心配事が多すぎてどうだこうだという、勇者録に記載された、勇者が今までどんな言葉を話してきたかというマイナー中のマイナーな古文書の端っこに記載された話で、俺も何書いていたかほとんど覚えていないが、その「杞憂」という単語は妙に癖になり、辛いことや心配事があると、いつもそんなことわざを思い出す。
今回も、俺が思っていた最悪の状況は避けられた。
それは幸なのか不幸なのか、恐らく全体としては若干不幸寄りの結果ではあるが、俺の臆病で弱々しい部分にとっては、正直助かったという言葉しか出ない。
ダニエル・モーガンの両親は、自分の息子に無関心だった。
俺が、
「申し訳ありませんでした」
と電話越しで謝ると、ひとしきり嫌味を言った後、
「では、また次気を付けてくれれば」
と面倒になったのか、そう言ってすぐに受話器を置く音が聞こえた。
圧倒的に俺が悪い局面で随分寛大な措置である。
由緒正しきモーガン家からすれば、ぽっと出の孤児の教師など簡単に捻りつぶしてしまうだろう。
そんなことをしようという素振りも見せなかったのは、俺にとっては幸運だった。
だが、それが全体的に良いことではないというのは明白だ。
ダニエルの両親は俺に嫌味を言うだけ言ったが、これは俺の教師としての自覚を問うものだった。
どういう経緯で、一体どんなふうにダニエルに対して魔法を使ったのか、普通の親ならそれくらい気にはなるだろう。
何の質問もなく、
「あなたは本当に素晴らしい教育者ですね」
という皮肉を吐くだけで終わった電話は、モーガン家の、いや貴族社会の気味の悪さを描いていた。
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