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第4章
生徒たち
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まずやって来たのは、アメリアだった。
「おはようございます」
「おはよう」
長い水色の髪を一つにくくっている。
いわゆるポニーテールってやつだ。
アクアマリンの瞳の上には、武骨でシンプルな眼鏡が乗っている。
ファッションもワイシャツにジーンズと、いたって素朴な出で立ち。
正直もっと色のあった服の方が似合うと思うが、それでも彼女の気品は健在で、内側から溢れ出るような、こちら側が屈するようなオーラを放っていた。
「スチュワードと一緒に来たんじゃなかったのか?」
「あの子に電話かけたけど、繋がらなかったんです」
「まさか、合宿初日に寝坊か?」
「あの子、馬鹿ですからね」
言い方はきつい。
が、その「馬鹿」という言葉の中には愛着を含んでいた。
次にやって来たのは、リチャード。
クリーム色の髪をクシャクシャとさせている。
無表情で、こちら側がじっと見つめているにも関わらず、照れも表情筋を動かすことさえしなかった。
「おはようございます」
「おはよう」
世間話でもしようと口を開いたものの、そう言えばこいつとはそこまで仲が良くないことを思いだした。
勢い余って放った言葉が空を切り、
「げ、元気か?」
という、コミュニケーション能力のかけらもないクソみたいな話しかけ方だけが残った。
「……はい」
警戒するような目で俺を見やるリチャード。
「そ、そうか。それは良かった」
あらぬことを疑われたくないので、これ以上変に声掛けをしないようにしようと思う。
ややあって、ブロンドヘアの美少年がイライラと肩を怒らせてやって来た。
俺は少しホッとする。彼は結局最後まで、行くか行かないかハッキリ俺たちに言おうとしなかったからだ。
「良かった。来てくれたのか」
「……」
「どうして来てくれたんだ? おじさんに言われたのか?」
相変わらず俺はこいつに一方的に嫌われているらしく、憎悪の目で睨みつけられた。
「それにしても、スチュワードはどうしたんだ?」
理事長は腕につけた時計を見ながら、そう言った。
「もうそろそろ集合時間だぞ。あいつ遅刻魔だったか?」
「いえ。遅刻はしませんよ。かといって早くはありませんが」
学校の授業でも、大抵俺の少し前くらいに、
「間に合わない! どうしよう!」
と叫びながら教室に入るのを定期的に目撃する。
「はあ……。しっかりしてもらわなければならないな、彼女には。勇者はみんなを纏めるリーダーだ。そのリーダーが遅刻するのは示しがつかん」
「もし来なかったらお仕置きですねぇ」
グフフと笑うメイソンに、一同が戦慄した。
残り一分。
五十九秒。
五十八秒。
五十七秒。
五十六秒……。
六。
五。
四。
三。
二。
「間に合ったぁ。セーフ!」
俺たちのいる数メートル先の空間が歪に捻じ曲がったと思えば、切り開かれてぱっくりと割れた。
時空間の先からひょっこりと現れたのは、大きなキャリーバックを引きずったマリベルだった。
「危ない危ない。遅刻するとこだった! 先生、セーフですよね」
「「「いや、アウトだ(です)」」」
三人の教師の声が同時に被った。
「ええっ、でも今でちょうどですよ」
「馬鹿か。それは高度な時空魔法だろう。トーマもまだお前に教えていないはずだ」
「そうだけど……。でも、来れたんだから良くない?」
「良くない。誰かに頼んでやってもらったのかは知らんが、それは怠惰だ。お前はこれから合宿で自分の力を高めなければならないのに、なぜ自分の力を使わなかったんだ!」
「ひっ……」
マリベルの顔が恐怖で歪む。
その声色にゾッとしながら、俺は昔のことを思いだした。
そうだ。
俺もかつては理事長直々に勉学や実技を教わっていた。
あらゆるトラウマが噴水のように噴き出してくる。
そうだ。
そうだった。
理事長は――。
鬼教師だった。
「罰として、スチュワード。お前は魔法なしで校庭五十周走れ!」
「そんなぁ!」
マリベルの悲痛な叫びが、爽やかな朝日に包まれた学園全体に響き渡った。
「おはようございます」
「おはよう」
長い水色の髪を一つにくくっている。
いわゆるポニーテールってやつだ。
アクアマリンの瞳の上には、武骨でシンプルな眼鏡が乗っている。
ファッションもワイシャツにジーンズと、いたって素朴な出で立ち。
正直もっと色のあった服の方が似合うと思うが、それでも彼女の気品は健在で、内側から溢れ出るような、こちら側が屈するようなオーラを放っていた。
「スチュワードと一緒に来たんじゃなかったのか?」
「あの子に電話かけたけど、繋がらなかったんです」
「まさか、合宿初日に寝坊か?」
「あの子、馬鹿ですからね」
言い方はきつい。
が、その「馬鹿」という言葉の中には愛着を含んでいた。
次にやって来たのは、リチャード。
クリーム色の髪をクシャクシャとさせている。
無表情で、こちら側がじっと見つめているにも関わらず、照れも表情筋を動かすことさえしなかった。
「おはようございます」
「おはよう」
世間話でもしようと口を開いたものの、そう言えばこいつとはそこまで仲が良くないことを思いだした。
勢い余って放った言葉が空を切り、
「げ、元気か?」
という、コミュニケーション能力のかけらもないクソみたいな話しかけ方だけが残った。
「……はい」
警戒するような目で俺を見やるリチャード。
「そ、そうか。それは良かった」
あらぬことを疑われたくないので、これ以上変に声掛けをしないようにしようと思う。
ややあって、ブロンドヘアの美少年がイライラと肩を怒らせてやって来た。
俺は少しホッとする。彼は結局最後まで、行くか行かないかハッキリ俺たちに言おうとしなかったからだ。
「良かった。来てくれたのか」
「……」
「どうして来てくれたんだ? おじさんに言われたのか?」
相変わらず俺はこいつに一方的に嫌われているらしく、憎悪の目で睨みつけられた。
「それにしても、スチュワードはどうしたんだ?」
理事長は腕につけた時計を見ながら、そう言った。
「もうそろそろ集合時間だぞ。あいつ遅刻魔だったか?」
「いえ。遅刻はしませんよ。かといって早くはありませんが」
学校の授業でも、大抵俺の少し前くらいに、
「間に合わない! どうしよう!」
と叫びながら教室に入るのを定期的に目撃する。
「はあ……。しっかりしてもらわなければならないな、彼女には。勇者はみんなを纏めるリーダーだ。そのリーダーが遅刻するのは示しがつかん」
「もし来なかったらお仕置きですねぇ」
グフフと笑うメイソンに、一同が戦慄した。
残り一分。
五十九秒。
五十八秒。
五十七秒。
五十六秒……。
六。
五。
四。
三。
二。
「間に合ったぁ。セーフ!」
俺たちのいる数メートル先の空間が歪に捻じ曲がったと思えば、切り開かれてぱっくりと割れた。
時空間の先からひょっこりと現れたのは、大きなキャリーバックを引きずったマリベルだった。
「危ない危ない。遅刻するとこだった! 先生、セーフですよね」
「「「いや、アウトだ(です)」」」
三人の教師の声が同時に被った。
「ええっ、でも今でちょうどですよ」
「馬鹿か。それは高度な時空魔法だろう。トーマもまだお前に教えていないはずだ」
「そうだけど……。でも、来れたんだから良くない?」
「良くない。誰かに頼んでやってもらったのかは知らんが、それは怠惰だ。お前はこれから合宿で自分の力を高めなければならないのに、なぜ自分の力を使わなかったんだ!」
「ひっ……」
マリベルの顔が恐怖で歪む。
その声色にゾッとしながら、俺は昔のことを思いだした。
そうだ。
俺もかつては理事長直々に勉学や実技を教わっていた。
あらゆるトラウマが噴水のように噴き出してくる。
そうだ。
そうだった。
理事長は――。
鬼教師だった。
「罰として、スチュワード。お前は魔法なしで校庭五十周走れ!」
「そんなぁ!」
マリベルの悲痛な叫びが、爽やかな朝日に包まれた学園全体に響き渡った。
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