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第3章
第2段階
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例のごとく理事長室に呼ばれ、俺は道を急ぐ。
最近周りの人間たちから変な目で見られているような気がするが、気のせいだろう。
きっとそうだ。
「トーマです。失礼しま「第二段階だ」
彼女の頭にとって、俺が理事長室に出入りするのは当たり前のことになっているのであろうか、それとも性急に話を進めなければいけない事柄だったのか、俺の建前上の挨拶に被せて、口早に理事長はそう言った。
「第二段階ですか?」
「そうだ。第二段階だ」
理事長は杖を軽く振った。
勢いよく扉は締まり、室内に嫌な音の感触のみが残る。
ロココ調の可愛らしい家具が部屋の中を占拠している。
前理事長の好みらしいのだが、些か現理事長には野暮ったく感じる。
彼女にはもう少し、アールデコ調のスタイリッシュなものが似合うのではないだろうか。とか何とか、どうでもいいことを考えた。
「スチュワード家とフローレス家についで、剣士のフォスター家と魔法使いのモーガン家を説得した。彼の家も、それぞれ一人ずつ剣士と魔術師を差し出してくれた」
「差し出すって……。あそこ、どうやって説得したんですか?」
スチュワード家やフローレス家はまだしも、あの二つの家は貴族的な家系のはずだ。
そう、あくまで「貴族」。
保守的だ。
自分たちの後を継ぐ子どもたちを危険に晒してまで、元祖勇者一行の子孫としての役割を果たそうとは到底思えなかった。
「妥協して、本家筋ではなく、分家の生徒を用意してもらった」
「要は、自分たちの身の安全を確保しつつ、あわよくば魔王を討伐したという称号を手に入れて、自分たちに箔を付けたいわけですね」
「お前は相変わらず口が悪いな」
「別に。ただ、いいとこ取りでウザいなって思っているだけで」
俺はムカムカする内臓を鎮めようと、一旦目を閉じた。
「いいとこ取りでもなんでも、私たちに協力してくれるのだから」
理事長は、荒ぶる俺を諭すように優しく言った。
「そうですけど。でも、ちょっと」
「まあまあ。お前のクラスに新しい『お友達』が入って来るんだ」
マリベル・スチュワードも、アメリア・フローレスも喜ぶだろう、と嘯く。
「名前教えてくださいよ。彼らの」
「フォスター家からはリチャード。マリベルとアメリアの二個上だな。で、モーガン家からはダニエル。あの二人の一個下だ」
「うわぁ」
またややこしくなりそうだと頭を抱えた。
「年齢差か」
「仕方がない。勇者一行の末裔が同い年とは限らんだろう」
理事長は一息入れた。
甘いクッキーの香りが、俺の鼻孔をくすぐる。
「まあ、社交界かなんかで互いに面識あるだろうから、人間関係面では楽でしょうね」
「それはどうだろう」
孤児であるお前は知らんだろうが、と彼女は空虚なため息をつく。
「分家と本家には決定的な差異があってだな」
「差異?」
「直系であるかどうかで、社交界やら貴族のしきたりなんかで扱いが代わって来るんだ」
「なんだそれ。めんどくさ」
「貴族社会というものは、そんなものだ。自分たちの家を守ることが最重要だからな。世襲制だから、何も考えずに分家の待遇を良くすると、調子に乗った分家が自分たちを乗っ取ろうと画策したり、それに乗じたライバル貴族が介入してきたりと、ややこしい事態になる」
「それを止められるくらいの気概がなければ、政治なんて出来るわけないと思いますけど」
「それがまかり通る世の中なんだ。この世界は」
「……滅ぶぞ」
理事長は何も言わずに首を竦めて見せた。
「私はな」
彼女はマグカップを、華奢な指で弄ぶ。
「あの生徒たちに変えて欲しいんだ。もちろん彼らには世界を救ってもらう必要がある。異世界へ全員で転移することも可能だが、それじゃ今回のようなことが、また起こってしまう。要は政治に何の興味関心も抱かない腐った貴族たちの代表が世界を救う。そこには一人の『非』貴族の立役者がいた。彼に指導された生徒たちは一致団結し、世界を救った。お前の存在も含めたその成功こそが、この先の世界で重要視されるであろう事柄だ」
最近周りの人間たちから変な目で見られているような気がするが、気のせいだろう。
きっとそうだ。
「トーマです。失礼しま「第二段階だ」
彼女の頭にとって、俺が理事長室に出入りするのは当たり前のことになっているのであろうか、それとも性急に話を進めなければいけない事柄だったのか、俺の建前上の挨拶に被せて、口早に理事長はそう言った。
「第二段階ですか?」
「そうだ。第二段階だ」
理事長は杖を軽く振った。
勢いよく扉は締まり、室内に嫌な音の感触のみが残る。
ロココ調の可愛らしい家具が部屋の中を占拠している。
前理事長の好みらしいのだが、些か現理事長には野暮ったく感じる。
彼女にはもう少し、アールデコ調のスタイリッシュなものが似合うのではないだろうか。とか何とか、どうでもいいことを考えた。
「スチュワード家とフローレス家についで、剣士のフォスター家と魔法使いのモーガン家を説得した。彼の家も、それぞれ一人ずつ剣士と魔術師を差し出してくれた」
「差し出すって……。あそこ、どうやって説得したんですか?」
スチュワード家やフローレス家はまだしも、あの二つの家は貴族的な家系のはずだ。
そう、あくまで「貴族」。
保守的だ。
自分たちの後を継ぐ子どもたちを危険に晒してまで、元祖勇者一行の子孫としての役割を果たそうとは到底思えなかった。
「妥協して、本家筋ではなく、分家の生徒を用意してもらった」
「要は、自分たちの身の安全を確保しつつ、あわよくば魔王を討伐したという称号を手に入れて、自分たちに箔を付けたいわけですね」
「お前は相変わらず口が悪いな」
「別に。ただ、いいとこ取りでウザいなって思っているだけで」
俺はムカムカする内臓を鎮めようと、一旦目を閉じた。
「いいとこ取りでもなんでも、私たちに協力してくれるのだから」
理事長は、荒ぶる俺を諭すように優しく言った。
「そうですけど。でも、ちょっと」
「まあまあ。お前のクラスに新しい『お友達』が入って来るんだ」
マリベル・スチュワードも、アメリア・フローレスも喜ぶだろう、と嘯く。
「名前教えてくださいよ。彼らの」
「フォスター家からはリチャード。マリベルとアメリアの二個上だな。で、モーガン家からはダニエル。あの二人の一個下だ」
「うわぁ」
またややこしくなりそうだと頭を抱えた。
「年齢差か」
「仕方がない。勇者一行の末裔が同い年とは限らんだろう」
理事長は一息入れた。
甘いクッキーの香りが、俺の鼻孔をくすぐる。
「まあ、社交界かなんかで互いに面識あるだろうから、人間関係面では楽でしょうね」
「それはどうだろう」
孤児であるお前は知らんだろうが、と彼女は空虚なため息をつく。
「分家と本家には決定的な差異があってだな」
「差異?」
「直系であるかどうかで、社交界やら貴族のしきたりなんかで扱いが代わって来るんだ」
「なんだそれ。めんどくさ」
「貴族社会というものは、そんなものだ。自分たちの家を守ることが最重要だからな。世襲制だから、何も考えずに分家の待遇を良くすると、調子に乗った分家が自分たちを乗っ取ろうと画策したり、それに乗じたライバル貴族が介入してきたりと、ややこしい事態になる」
「それを止められるくらいの気概がなければ、政治なんて出来るわけないと思いますけど」
「それがまかり通る世の中なんだ。この世界は」
「……滅ぶぞ」
理事長は何も言わずに首を竦めて見せた。
「私はな」
彼女はマグカップを、華奢な指で弄ぶ。
「あの生徒たちに変えて欲しいんだ。もちろん彼らには世界を救ってもらう必要がある。異世界へ全員で転移することも可能だが、それじゃ今回のようなことが、また起こってしまう。要は政治に何の興味関心も抱かない腐った貴族たちの代表が世界を救う。そこには一人の『非』貴族の立役者がいた。彼に指導された生徒たちは一致団結し、世界を救った。お前の存在も含めたその成功こそが、この先の世界で重要視されるであろう事柄だ」
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