1 / 67
プロローグ
しおりを挟む
この世界は、平和だった。
魔法だのなんだのという物騒なものは確かに存在するが、異世界から勇者が召喚され魔王を倒したという話は長い年月が経って伝説となり、すでにおとぎ話となっていた。
「こら、そんなことすると、魔王がお前の魂を取ってしまうよ」
「そんなわけないじゃん。何言ってんの、お母さん。魔王も勇者もおとぎ話だよ」
と、母親の脅しを馬鹿にして笑う可愛くない子どもが多数存在し、たいそう両親を困らせている。
魔法はみな平等に使えるが、それを使って誰かを傷つけることは法律で禁止されているし、誰も彼もそれに従っている。
むしろ、
「俺はこの世界を救うんだ!」
と常日頃仰っている方々は、周囲から冷たい目で見られていた。
「あんたさ、いい加減定職付きなよ。冒険者なんてのが流行ったの、一体何百年前だよ。古臭いのにもほどがあるよ」
剣一本、杖一本で旅をする若者など、とうに存在しなくなっていた。
代わりに若いカップルどもがイチャイチャイチャイチャと鬱陶しいくらいにくっつきあって旅行に出かけ、両親から、
「あの子、大丈夫かしら。遊んでばかりで。将来が心配だわ」
「そうだな。そろそろ就職活動してもらわないと」
なんてため息交じりに話し合われる存在となり果てている。
要するに、だ。
この世界は、平和だった。
平和だったのだ。
「先生! トーマ先生! 何ぼうっとしてるの?」
「トーマ先生! 大丈夫ですか? 何か問題でも?」
「ああ。気にすんな。何でもない」
我に返り、目の前をじっと見上げる。
紫色の毒々しい液体を周囲にばらまき、自分の何倍もの背の高さを誇る化け物。
身体からはシューシューと音を立てて泡が発生している。
ボタボタと落ちる塊は、周囲の大理石を溶かしていく。
ああ、高級品なのに。また理事長に叱られる。
給料減らされる。
「先生! 見ててね」
勇者と呼ばれる少女が剣を持ち、化け物に駆け寄っていった。
危なっかしい足取りで液体を避け、怪物に挑む。
「よくも学園に現れたな、化け物め。この私が成敗してくれるわ!」
「頑張って! 回復魔法は私にお任せください!」
生徒たちの攻防を見守りながら、俺は思考を巡らす。
ああ。この世界は、平和だった。
平和だったのに。
どうして、俺はこんな目に合うんだ?
魔法だのなんだのという物騒なものは確かに存在するが、異世界から勇者が召喚され魔王を倒したという話は長い年月が経って伝説となり、すでにおとぎ話となっていた。
「こら、そんなことすると、魔王がお前の魂を取ってしまうよ」
「そんなわけないじゃん。何言ってんの、お母さん。魔王も勇者もおとぎ話だよ」
と、母親の脅しを馬鹿にして笑う可愛くない子どもが多数存在し、たいそう両親を困らせている。
魔法はみな平等に使えるが、それを使って誰かを傷つけることは法律で禁止されているし、誰も彼もそれに従っている。
むしろ、
「俺はこの世界を救うんだ!」
と常日頃仰っている方々は、周囲から冷たい目で見られていた。
「あんたさ、いい加減定職付きなよ。冒険者なんてのが流行ったの、一体何百年前だよ。古臭いのにもほどがあるよ」
剣一本、杖一本で旅をする若者など、とうに存在しなくなっていた。
代わりに若いカップルどもがイチャイチャイチャイチャと鬱陶しいくらいにくっつきあって旅行に出かけ、両親から、
「あの子、大丈夫かしら。遊んでばかりで。将来が心配だわ」
「そうだな。そろそろ就職活動してもらわないと」
なんてため息交じりに話し合われる存在となり果てている。
要するに、だ。
この世界は、平和だった。
平和だったのだ。
「先生! トーマ先生! 何ぼうっとしてるの?」
「トーマ先生! 大丈夫ですか? 何か問題でも?」
「ああ。気にすんな。何でもない」
我に返り、目の前をじっと見上げる。
紫色の毒々しい液体を周囲にばらまき、自分の何倍もの背の高さを誇る化け物。
身体からはシューシューと音を立てて泡が発生している。
ボタボタと落ちる塊は、周囲の大理石を溶かしていく。
ああ、高級品なのに。また理事長に叱られる。
給料減らされる。
「先生! 見ててね」
勇者と呼ばれる少女が剣を持ち、化け物に駆け寄っていった。
危なっかしい足取りで液体を避け、怪物に挑む。
「よくも学園に現れたな、化け物め。この私が成敗してくれるわ!」
「頑張って! 回復魔法は私にお任せください!」
生徒たちの攻防を見守りながら、俺は思考を巡らす。
ああ。この世界は、平和だった。
平和だったのに。
どうして、俺はこんな目に合うんだ?
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(
主人公を助ける実力者を目指して、
漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界で俺はチーター
田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。
そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。
蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?!
しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる