生き別れの兄が魔法使いだった

小倉みち

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第1章

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 私は驚いた。


 なんでこの人、私の名前を。


「花?」

「え、ええ……」


 私は戸惑いを隠せなかった。

 ひとまず頷く。


「確かに私は『花』という名前ですけど……。あの、もしかして両親の知り合いですか?」

 だが、彼は私のその質問に答えず――。


「花、やっぱり花だ!」

 と叫び、私に抱きついてきた。


「ちょ、ちょっと、ちょっとなんですか!? なんなんですか!?」

「花、花! 良かった、良かった見つかって! 僕、散々探したん――」

「離して!」


 私は思わず男の胸に両手を当てて突き飛ばした。


 体重の軽そうな彼は、私の力いっぱいの行動でソファに向かってひっくり返る。

 バコン。


 彼の後頭部が、ソファの角に当たる。

「ギャッ」


 彼は小さく叫び、そのまま動かなくなった。

「び、びっくりしたぁ。何するんですか――って、えっ、あの、大丈夫ですか!?」


 私は動かない男の傍に寄る。

「大丈夫ですか? お兄さん? あれ、ヤバい? もしかして殺しちゃった?」


 でも、ソファの角で。

 痛いだろうけど、死ぬほどじゃ。


 私は男の顔を確認する。


 彼は目を回してぶっ倒れていた。


 ……多分、気絶だ。


 ソファの頭で角を打って気絶。

 めちゃくちゃ弱いじゃん、この人。




「すみません、そこまで弱いと思ってなくて」

 私は面倒くさいと思いながらも、男の目が覚めるまで後頭部を冷やし続けた。

「お加減は大丈夫ですか?」

「ああ。うん。大丈夫……」


 男は後頭部を押さえながら起き上がった。

「まさかソファで気絶するとは」

「僕、こんなに身体が弱かったんだね……」


 彼はそう言って、わかりやすく頭を抱えた。

 軽くショックを受けている。

 無理もない。


「すみません。気絶させてしまって」

「ううん。大丈夫。それより、なんだっけ? 話の続き――そうだ。君、花で間違いないんだよね?」

「ええ。そうです」

「もしかして旧姓は、『花咲(はなさき)』? 花を咲かすの花咲?」

「え、ええ」


 はなさかじいさんみたいな苗字だ。

 小さいころの記憶はほとんどないけど、苗字は覚えている。


 だって、花咲 花って。

 どういう神経してたら、こんな名前をつけるんだろう。


 今の星野 花もたいがいだけど。


「ってことは、君は僕の探し求めていた人間なんだ」

 男は、なぜか泣きそうな顔で言う。

「探し求めていた?」


 私は、初めてこの男に警戒心を抱いた。


 何を言っているんだ、この人。


「申し遅れました――僕の名前は、花咲 薫(はなさき かおる)。君の知っている人間だよ」

「花咲 薫……?」


 その女の子っぽい名前。

 聞いたことある。


「もしかして」

 私は失礼だということを忘れて、彼を人差し指で指した。

「もしかして、私のお兄ちゃんと同姓同名?」

「同姓同名じゃなくて」


 男はにっこりと微笑んだ。

「君の実の兄だよ――久しぶりだね、花」


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