15 / 15
第1章
同居
しおりを挟む
まさかの提案に、俺は危うくお茶を吹き出しそうになった。
「えっ、えっ」
「あっ、ごめん嫌だった?」
竹中は俺に謝った。
「ちょっと言ってみたかっただけだから、気にしないで」
「い、いや、その。嫌じゃないというか、むしろ嬉しいというか」
これ以上言うとボロが出そうなので、慌てて咳をして誤魔化した。
「な、なんで急にそんな……」
「羽柴君、今日会社行ってないでしょ?」
「うっ」
俺は竹中に何も話していない。
だけど、平日の今日外出せずにのそのそとハンバーグを焼いている俺に違和感を持つのは当然のことだ。
「ああ、まあ……」
「本当のことを話してほしいの。出来ればで良いから」
出来れば、話したくはなかった。
竹中に、かつての調子に乗った俺を知っている女の子に、俺の現状を知ってほしくはなかった。
だが、竹中の落ち着いた物言いを聞いて、俺は思わずポロリと話してしまう。
「会社が倒産して、家も燃えてなくなったんだよ。端的に言うと」
「えっ」
「それでどこにも行く当てがなくて、ぼろ雑巾になるまで飲んだあとに竹中に拾ってもらったっていう」
「……」
言ってて恥ずかしくなった。
というか俺が竹中に作ってあげたハンバーグだって、まるで俺が竹中に依存するために用意したお礼みたいな感じで。
意図せず竹中を頼っているみたいな気持ちになって、どんどん自分自身が嫌になった。
「ごめん」
俺は立ち上がり、皿を流しに置こうとする。
「俺、帰るわ。ありがとう」
「さっき帰る場所ないって言ってなかった?」
「まあそうだけど」
どこかのビジホかネカフェにでも止まれば良い。
そこを拠点として、また仕事を探せば――。
「それなら、ここで住めば良いと思うの」
竹中は俺に向かって通せんぼする。
可愛い。
「いや、でも竹中に悪いって言うか……。それに、俺男だし」
「大丈夫。羽柴君なら全然大丈夫だから」
それ、どっちの意味なんだろうか。
どっちの意味かによって、俺の今後の立場が変わってくるんだけど。
「放って置けないのよ、羽柴君。なんか捨てられた犬みたいで」
竹中は言った。
「羽柴君、一緒に住もう。私は働くから、羽柴君は家で家事をやってほしい」
「家事……」
「もちろん、良ければだけど。私の部屋で住みながら就職活動すれば良いじゃん。ね?」
竹中のこれ以上ないくらいの歓迎ぶりと、俺のちょっとした下心的なことが相まって、気づいたら俺は首を縦に振っていた。
「えっ、えっ」
「あっ、ごめん嫌だった?」
竹中は俺に謝った。
「ちょっと言ってみたかっただけだから、気にしないで」
「い、いや、その。嫌じゃないというか、むしろ嬉しいというか」
これ以上言うとボロが出そうなので、慌てて咳をして誤魔化した。
「な、なんで急にそんな……」
「羽柴君、今日会社行ってないでしょ?」
「うっ」
俺は竹中に何も話していない。
だけど、平日の今日外出せずにのそのそとハンバーグを焼いている俺に違和感を持つのは当然のことだ。
「ああ、まあ……」
「本当のことを話してほしいの。出来ればで良いから」
出来れば、話したくはなかった。
竹中に、かつての調子に乗った俺を知っている女の子に、俺の現状を知ってほしくはなかった。
だが、竹中の落ち着いた物言いを聞いて、俺は思わずポロリと話してしまう。
「会社が倒産して、家も燃えてなくなったんだよ。端的に言うと」
「えっ」
「それでどこにも行く当てがなくて、ぼろ雑巾になるまで飲んだあとに竹中に拾ってもらったっていう」
「……」
言ってて恥ずかしくなった。
というか俺が竹中に作ってあげたハンバーグだって、まるで俺が竹中に依存するために用意したお礼みたいな感じで。
意図せず竹中を頼っているみたいな気持ちになって、どんどん自分自身が嫌になった。
「ごめん」
俺は立ち上がり、皿を流しに置こうとする。
「俺、帰るわ。ありがとう」
「さっき帰る場所ないって言ってなかった?」
「まあそうだけど」
どこかのビジホかネカフェにでも止まれば良い。
そこを拠点として、また仕事を探せば――。
「それなら、ここで住めば良いと思うの」
竹中は俺に向かって通せんぼする。
可愛い。
「いや、でも竹中に悪いって言うか……。それに、俺男だし」
「大丈夫。羽柴君なら全然大丈夫だから」
それ、どっちの意味なんだろうか。
どっちの意味かによって、俺の今後の立場が変わってくるんだけど。
「放って置けないのよ、羽柴君。なんか捨てられた犬みたいで」
竹中は言った。
「羽柴君、一緒に住もう。私は働くから、羽柴君は家で家事をやってほしい」
「家事……」
「もちろん、良ければだけど。私の部屋で住みながら就職活動すれば良いじゃん。ね?」
竹中のこれ以上ないくらいの歓迎ぶりと、俺のちょっとした下心的なことが相まって、気づいたら俺は首を縦に振っていた。
0
お気に入りに追加
34
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
千紫万紅の街
海月
キャラ文芸
―「此処に産まれなければって幾度も思った。でも、屹度、此処に居ないと貴女とは出逢えなかったんだね。」
外の世界を知らずに育った、悪魔の子と呼ばれた、大切なものを奪われた。
今も多様な事情を担う少女達が、枯れそうな花々に水を与え続けている。
“普通のハズレ側”に居る少女達が、普通や幸せを取り繕う物語。決して甘くない彼女達の過去も。

裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる