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第1章

天使

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「…っと、ちょっと!」


 バシャッ。


 凍るように冷たい何かが顔面に当たった。

 俺はビックリして、目を覚ます。


「ちょっと、大丈夫ですか?」


 さっきの天使の声だった。


 いや、天使じゃない。

 人間だ。


 俺は顔にかけられたものを、スーツの裾で拭う。

 無臭だった。


 おそらく、水だ。


 水をかけられたおかげで、意識がはっきりする。


 目の前にいるのが天使ではなく、スーツ姿の女性であることに気づいた。


 後ろの街灯で逆光になっていたので、顔はよく見えなかったが。


「あー、あっ……ゲホッ」

 酒焼けしたしゃがれた声で、俺はお礼を言う。

「すみません、起こしてくださってありがとうございます……」


 本当は起こしてほしくなんてなかったけど。

 そのままゴミとして処分してほしかった。


「いえ」


 その女性は、俺の近くにペットボトルを置いた。

「これ、水です。良ければどうぞ」


 少し蓋が空いたそれは、さっき俺にかけた水が入っていたものなのだろう。

「すみません、本当に」


 俺はそれを受け取り、ごぶごぶ飲んだ。

 途中、気管に入ってむせる。


「すみません、さっき」

 女性が言った。

「急に水かけちゃって……。もしかして、死んじゃったのかと」

「ああ、いえ。気にしないでください」


 そのまま、2人して一瞬黙り込む。


 彼女は立ち去ることなく、そのまま俺の前にいた。


 まだ俺に何か用があるのか。


「あっ」

 俺はそれに気づき、慌てて財布を取り出す。

「すみません、水、いくらでしたか?」


 財布から小銭を取り出そうとするが、暗くて見えない。

 ただ、100円らしきものは手触りでわかった。


「あの、とりあえず100円」

「ああ、お金は大丈夫です。気にしないでくださいーーそれより」


 女性は、俺の顔をのぞき込むようにして近づく。


 近づいても、大丈夫なんだろうか。

 俺今、結構ゲロ臭いんだけど。


「あの、もしかして。違ったら申し訳ないんだけど、羽柴君? 羽柴君だよね?」


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