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第1章

ゴミ捨て場

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 気づくと。


 俺は、異臭のする空間で眠っていた。


 背中には、ビニールの感触。

 生ゴミの、何かが腐ったような臭い。


 アルコールがまだ抜けていない頭で、俺は一生懸命推理する。


 どうやらここは、ゴミ捨て場らしい。

 まだ日が回っていないのに、気の早い誰かが既に生ゴミを捨てているらしかった。


 そのせいで、世界一臭いベッドが完成されていた。


 その臭いのせいか、それとも酒をアホ程飲んでいたせいか。


 頭が痛い。

 ガンガンする。

 気持ち悪い。


 ムッとした嫌な臭気に充てられて、俺は嘔吐く。


 俺の身体はすっかり吐きなれてしまっていた。


 なんの抵抗もなく、食道を通って胃液が逆流する。

 が、固形物は出てこない。


 暗闇の中をよくよく観察すると、生ゴミ以外に酸っぱい匂いが充満していた。


 すでに俺は、ここで何度か吐いているらしい。


 胃の中は空っぽだ。

 あんなに食べた料理が、全部腹の中から姿を消した。


「う、うぅ……」

 言葉にならないうめき声が、口から漏れ出る。


 少しだけ残った理性を使って、俺は財布を探し当てた。

 真っ暗な世界では、財布の中身が確認出来ない。


 だが重量感で察するに、一応お金は支払ったらしい。


 食い逃げで警察に逮捕されることはないようだ。


 でも、そっちの方が良かったかもしれないな。


 ぼんやりする世界の中で1人、俺は自嘲気味に笑った。


 何かやらかして捕まった方が、堕ちるところまで堕ちる方が、俺にはお似合いなのかもしれない。

 そっちの方が、俺はマシな生活が出来るのかもしれない。


 これからどうしようか。

 どうやって生きていこうか。


 俺は重なり合ったゴミ袋の隙間に両手をつき、立ち上がる。

 立ち上がった途端、酒が回って頭がふらふらした。


 仕事も家も、全部なくなった。

 何もなくなってしまった。


 いや、でももともと、俺には何もない。

 入れ物がなくなっただけだ。


 そのまま真っすぐに進もうとするが、足が思うように動かない。

 結局もつれ、そのままゲロまみれのゴミ袋に俺はダイブする。


 俺はそのまま脱力した。

 もう、立ち上がる気力はない。


 良いや、もうこれで。


 俺は思った。


 もうこれで良いや。

 このまま明日ゴミと一緒に回収されて、ゴミ処理場で燃やしてもらおう。


 うん、良い。

 それが一番良い。


「ひっ」


 後ろから女性の声が聞こえた。

「だ、大丈夫ですか……?」


 とても綺麗な声だった。

 澄んだ泉みたいな、汚れ1つない美しい声。


 ……ああ、きっと天使が迎えに来てくれたんだろうな。

 なんだか聞いたことのあるような声だけど。


 まあ、良いや。

 良かった。


 これで俺は、この苦しみから解放される――。


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