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第1章

陰口

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 私は殿下からいただいた金平糖を持ち、ほくほくと自分の部屋に戻った。


 相変わらず殺風景で、物は何もない。

 言ってしまえば、独房みたいな作り。


 でもまあ、住めば都って言うし。


 ――って、1回だけでも良いから思ってみたかった。



 私は木材で出来た椅子に腰かける。


 1日中固い椅子に座っているせいで、腰とおしりが痛い。

 太もももおかげで浮腫みまくっている。


 これをなんて言うんだっけ?

 エコノミー症候群?


 せっかく羽があるのにこの国じゃ隠すしかないから、文字通り羽を伸ばすことも出来ない。


 実に窮屈な生活。


 机の上に置いてある魔法具を触り、仕事を再開する。


 仕事の中で、特に大事なのはこの国に張り巡らせている結界だ。


 この世界には、2つの種族に加えて魔物というものも存在する。


 もともと魔族の手下のような存在だったが、上司である魔族が別の地に移住したため、彼らは晴れて自由の身となり、人間族に襲い掛かるようになった。


 国の中に入ってこないようにするために、こうして私は魔法具を用いて結界を生み出しているわけだ。


 それに、一応は我が妖精族も魔族の類。


 魔族がいなくなったことで人間族に迷惑をかけているなら、それ相応の対処は必要だと思っている。


 しばらく目を瞑って、魔法具に魔力を送り続けていると。


 ガサッ。


 扉の下の小窓が動いた。


 食事の時間だ。


 私は魔法具から手を離し、扉の方へ向かう。


 ……今日もパサパサのパンと冷たいスープだ。


 私は屈んでお盆を取り、自分の机にもっていこうとした。


 ――そのとき。


「あら、何してるの?」

 扉の向こう側で、女の人の声が聞こえた。

「こんなところにわざわざ来るなんて。珍しい」


 どうやら、給仕係に話しかけているらしい。

 私は黙って、扉に耳を当てる。


「だって、あの子今日休みなのよ」

 給仕係は、不満の声を漏らした。


「だからこの私が、わざわざこんな意味わかんない場所まで食事を運ばされて」

「うわぁ。最悪ね。だってここ、あの『聖女』の部屋じゃない」


 「聖女」という言葉に、侮蔑が含まれていた。


「そう、あの偽物の」

「何様なのよ、あの人。自分がただの魔力の多い人間なだけなのに、聖女様ぶっちゃって」

「性格悪そう」

 くすくすと、意地の悪い笑い声が聞こえる。

「それに、あの人王子様に色目使っているわよ」

 と、給仕係。

「私たまに見るもの。殿下が話しかけてくると、ベタベタした話し方で」

「やだ、気持ち悪い。自分ごときが殿下とどうにかなれると思ってんのかしら」

「思ってるんじゃない? だって、あの『聖女様』だし」


 キャハハハハという甲高い笑い声が、だんだんと遠のいていった。

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