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プロローグ

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 私――アンリには、夫がいる。

 現国王の甥である、ダニエル・ベルガルド公爵。


 もともと子爵令嬢である私と、王家の血を引く彼が、どういう経緯で婚約することになったのか。


 そこには、1つのドラマがあった。


 まず、夫には恋人がいた。

 彼女の名前は知らない。


 平民の、酒場で働いている女性だったそうだ。


 彼女とダニエルは、彼がお忍びで町に出たときに出会ったらしい。


 貴族らしい洗練された美しさのダニエルと、妖艶な雰囲気の彼女。


 2人はすぐに恋に落ち、男女の関係になった。


 しかし、王家の血を引く者と、一般庶民。


 身分に天と地ほどの差のある2人の恋路は、困難を極めた。


 
 2人の交際に、彼の両親と国王が反対したのだ。


「貴族の血を何だと思っている!」

「王族の名を汚すな!」


 若い2人の恋は、巨大な権力によってビリビリに引き裂かれることになった。


 彼女は彼らからの脅しに遭い、姿を消した。

 ダニエルは軟禁生活を送るようになり、学校以外の外出をすべて禁じられた。


 彼らは、別れさせられたのだ。


 そして、平民の女性から引き剥がすために、ダニエルは無理やり婚約者をあてがわれた。


 それが私、子爵令嬢アイリだった。


 彼ら2人を別れさせるという意味でしかない婚約だった。

 私の家は、貴族とは名ばかりの、貧しい家柄。


 そのせいで婚約者のいなかった私に目をつけた国王が、私をダニエルの婚約者にするよう命じたのだ。


 彼の両親も、平民よりはマシだという気持ちで、それを受け入れたのだろう。


 そんな関係ではありながらも、意外なことに、私とダニエルの仲はうまくいっていた。

 お互い馬が合い、恋愛関係とまではいかなくとも、それなりに中の良い婚約関係になることは出来た。


 私たちはそのまま婚約関係を維持し、学園を卒業後、結婚する。


 そのままだと思っていた。

 婚約していたときのように、穏やかな結婚生活を送れると。


 ダニエルも、平民の女性のことは吹っ切れたのだと。


 ほかと同じく、私たちも「普通」の夫婦となれるのだと。


 までは、そう思っていた。

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