カブラギ魔対はロマン主義って本当ですか!?

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本部侵攻編

#14 旧暦信仰東都本部突入作戦

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 「お前ら、どう思うよ」


 旧暦信仰東都本部前。
 本部は都心から少し外れた山の麓、四方を森に囲われ、広大な敷地面積と大聖堂をはじめとした十棟からなる巨大な建物である。

 その正門前の木の上で、太い枝に乗り、ユウキ、アキラ、フクリは偵察に来ていた。


 「警備がザル過ぎるね、革命前夜だよ?」


 日が沈み、時刻は十九時を過ぎた頃。
 建物内に明かりはあるのものの、警備は門番二人り

 魔道士達本隊は少し後ろで待機中である。


 「誘われている、とは考えすぎか」

 「……漏れてんの?」


 作戦の流出。
 嫌な考えが脳裏を過ぎる。



 「馬鹿を言うな、誰が漏らす」

 「誰かしらいんだろ」

 「大道さんが集めた人員だよ、信頼できる、それに怪しい動きもなかったはず」


 裏切り者の可能性が三人に冷や汗を出させる。
 考えたくもない。


 「ま、討ち入りは決行だ、漏れてようとこっちはそもそも戦う気で来てる」

 「そうだね、本隊に連絡入れて、僕らが先行しよう」


 三人は頷いて、インカムを繋ぎ内線で連絡する。

 フクリは左手に巻いた端末を操作していた。


 「何してんの?」

 「潜入している隊員に連絡している、突入したら聖堂に入る前に合流する予定だからな」


 インカムは班内限定、班同士、全体の連絡はこの端末で行う手筈になっている。
 緊急時の信号などもここから出す。





 フクリが端末から連絡し終わると、ユウキの下にカレン達から返答が来る。


 本隊も動き出したようだ。


 行きますか、とユウキが伸びをした時、本部の玄関から続々と団員達が飛び出してくる。




 「……ヤバくない?」



 「やっば漏れてんじゃね? それか潜入がバレた」

 「そんなヘマはしない、なんにせよ強行は変わらない、本隊が来るまでに道を開ける」



 三人は気から飛び降り、本部の敷地に入る。

 

 そんな三人を見て、団員達は警戒態勢に入る。



 「遅いね」



 十数人いるだろうか、そんな団員達を三人の魔法が襲う。

 一瞬の出来事で、団員達はまとめて宙を舞い道が開けた。


 「ここで止めたきゃもっとマシな奴出してこい」
 

 
 トップ10の揃い踏み。
 魔道士達にとって、これ程までに安心し、信頼出来るものはなかった。


 
 後ろから本隊が門をこじ開けて合流する。



 目の前には堂々立ち並ぶ三人と倒れた団員達。

 今が大切な作戦中でなければ、歓声が上がるところだった。


 「なんだ、もう来たのか」

 「構わない、作戦開始だ」


 フクリの一言に場が緊張感を孕む。


 『旧暦信仰東都本部突入作戦』が開始された。







 「じゃ、先いくぜ」

 開始早々にアキラは駆け出していく。


 「あっ、ちょっと!」

 「全く……」

 
 続いて駆け出していく二人を眺めるだけのカレン達ではない。
 行こう、とアイリと頷き合い、後を追っていく。


 だが、既に前をアンコが走っていた。


 「あなた達、三人に追いつこうなんて思っちゃダメよ、体力がもたないわ」


 続々と魔道士達が後続する。


 「どうせ道中は三人が片付けて素通りできる、本番は大聖堂に入ってから、それまで温存しなさい」


 正面玄関から大聖堂までは長い廊下が続いている。
 直線とはいかないが、三棟進んだ先、丁度敷地の中央に大聖堂は位置している。


 事前情報では主力は大聖堂に集まっているはず、道中の各部屋の制圧は他の班員に任せ、班長三人は大聖堂へと突き進む。
 





 
 「昔から魔力なしのかけっこじゃ負けたことねぇよなぁ!」


 ユウキはバチバチと雷を纏いながら、フクリは体を浮かせ風に身を運ばせる。


 それと同じ速度でアキラは走っていく。
 コートがそれを示すようにバサバサと靡いている。


 彼らの速度は尋常ではなく、突入しておよそ二分で二棟分、大聖堂まで半分の距離を走破していた。


 「疲れないの?」

 「バカ言え、お前らほどヤワじゃねぇんだよ」

 「無駄口を叩くな、戦場だぞ」


 途中、偶に遭遇する団員をなぎ倒しつつもその速度を落とさない。
 







 
 「カイドさんは、なんでついていけるんですか……!」


 またその半分ほど距離を空け、第二陣として走るのはカレン達とBEEMsの面々。

 部隊の大半を占める第三陣は各所を制圧しながらと比較的低速で進行している。



 「イカれてんのよ、ここにいるだけでも中々のものよカレン」


 やはり道中は、三人によって倒された団員達が転がっている。

 三人は大聖堂へと続く最後の直線へと曲がった様で、もう姿は見えない。


 「ねぇ、見て見て~」


 そんな能天気な声色なアイリだが、彼女を見ればフクリの様に宙を舞いながら進んでいる。


 「真似してみたらできた!」


 ポニーテールを揺らがせて、ニコニコとアイリは笑っている。


 「体を乱気流みたいなもので覆うんだ~、一緒に推進力になる追い風を吹かせて完成! まだあんな速度は出ないけどね」


 全くこの友人は、いつもいつも私を驚かせ、一歩先を行く、つくづく凄いやつだとカレンは思う。


 アイリの大雑把な性格のおかげで成績だけでみればカレンが一歩有利だが、ポテンシャルに関してはカレンも認めている。




 「ていうか、カレン服どうしたの、それが戦闘服?」


 カレンが来ているのはレースをあしらったロングドレス。
 それも『KUREHA』製。


 「カズハさんが、ドレス良かったって言ったら作ってくれるって、今回は間に合わないからお店にあった試作品を、ちゃんと魔道士用ですよ」

 「あの女装偏屈頑固野郎が? よく引き受けてくれたわね」

 「ユウキくんを介してお願いしましたから」

 「あぁ、なるほどね」


 どうもドレス姿がカレンは気に入ったようだ。



 「さぁ、こっからが本番___は?」










 「この扉の先だ」


 大聖堂へと通ずる扉。


 廊下をかけ、そこへ近づいた時、扉の前に居た団員が大声を上げて近づいてきた。


 「作戦の中止を!」

 潜入していた魔法省の隊員。

 彼が敵では無いことに気付くと三人は速度を落とし、止まる。


 「どうした、大丈夫か?」


 フクリが膝に手を付き息を荒らげる彼の背中を摩る。


 「……作戦が……バレていました、ゴホッ、……潜入も、全て!」


 既に教団全体が戦闘態勢です、と彼は言う。


 「だろうな、承知の上だぜ」


 「……ダメなんです!」


 「は?」


 「……兵器も既に稼働して___」






 刹那の出来事だった。


 大聖堂の扉、そこを突き破って放たれた黒いレーザー。


 扉だけでなく、壁や床、全てを削って迫ってくる。


 放たれる瞬間にとてつもない魔力を感じ取った三人は咄嗟に隊員も抱き込んで横のドアに飛び込んだ。


 レーザーは一直線に廊下を走り、突き当たりの壁を貫通した。



 

 「……なんだ今の」

 「危なかったね」


 ユウキ達は部屋の中からレーザーの通った後を確認する。

 抉られたような痕跡がその威力を物語っている。



 
 「おい! しっかりしろ!」


 倒れ込んだ隊員に覆い被さるようになっていたフクリが声を上げる。

 隊員の顔を凝視し、何度も声をかけている。

 だが、その隊員は「あ、、う、うぁ、、」と呻き声を上げ、泣きじゃくるばかりだ。


 異常を察知した二人が見れば、隊員の左足、足首の部分が少し削れ、黒く縁取られていた。


 「チッ、掠ったか」


 ユウキが心配してその顔を覗き込んだ時だった。



 うわぁ、と隊員が声を出したかと思えば、瞬く間にその体が溶け、五秒もしないうちにその場には、彼の着ていた衣服だけが残った。





 唖然とするしかなかった。





 フクリが悔しさから思い切り拳で床を叩く。


 「……ヤベェだろ、これは」

 


 おもむろに立ち上がったフクリは廊下へと歩みを進める。


 「おい、待てフクリ!」


 二人が静止するが、聞く様子はない。



 廊下のど真ん中に立ち、大聖堂の方を見ると、無数の団員達が胸の前で手を合わせ、まるでお祈りするかのように目をつぶっている。


 正面に見える大きな女神像。


 その前にいる他よりも仰々しい神父服を纏った男。
 旧暦信仰最高司祭が言葉を発した。


 「いかがでしたかな、我々の兵器の味は……その様子ですと誰か召されたようですね……」




 その言葉にフクリがキレた。




 かざされた手から放たれる風の刃は非情にも信者達を肉塊へと変えていく。



 非戦闘員は捕虜として拿捕する。



 その目的からかけ離れた殺傷行為はフクリの感情がむき出されたことを意味していた。


 「フクリ! やりすぎだ!」


 アキラの声はフクリに届くことなく教会に響いていた。



 その時、アキラの真横を閃光が走った。



 息をする間に閃光が信者を刺し、轟音が鳴り響く。

 聖堂内を駆け巡った閃光は、やがて入口へと帰り、笑顔を無くしたユウキへと戻る。


 その頃には風の刃も止んでいた。



 「冷静なのは俺だけかよ」


 血走る二人に並び立つ。


 「危険な任務だ、当然やり合うことも殺されることも覚悟してる、だが」

 「だけど、あれは違う、掠っただけで死に至らしめ、よもやその遺体も残さない、人としての尊厳を踏み躙っている」


 最高司祭のうすら笑みが見える。


 散った仲間の為に怒り、使命的にあの兵器を破壊しなければならないと二人の眼は訴える。


 それに同調しないアキラならば、この場に居ないだろう。




 二人によって惨殺された信者達はどこからともなく補給される。

 そしてまた手を合わせ、祈りを捧げる。



 先程と違う点が一つ。

 最高司祭の周りに集う各都市支部長五人と東都本部の四人の幹部達。

 だが、それに臆さず立ち続けるのもまた三人。



 「さて、始めるか」

 「全員切り捨てる」

 「端っからそのつもりだぜ」

 遂に、魔道士対旧暦信仰の戦いが始まろうとしていた。



 のだが。



 その時、ユウキの端末が緊急事態を告げた。

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みんなの感想(1件)

菜乃ひめ可
2024.09.30 菜乃ひめ可

文章表現がとても詳細で説明もその都度あり分かりやすく感じました。情景描写も丁寧に書かれていて、場面が目に浮かぶようです。また、登場人物のお名前や技についても、印象的です。まだまだ物語はこれからですね! 今後続きを楽しみにしています。ここまで拝読させていただきありがとうございました。

解除

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