眠らない街には花束を

メ々

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4話

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昼が暮れ、夜が訪れる。

ダズはユキを連れ、街の外れに来ていた。

街を見下ろせるくらいの高台に位置したこの場にはある花が群生している。

ダズはその花を1輪切り取って香りを嗅いだ。

「この花はな、ダズライトって言って夜にしか咲かなくてな、満月の夜にはここら一体、満開に咲くんだ」

「ダズ、ライト?」

「あぁ、俺の名前の由来らしいぜ」

両親の好きな花。

まるで、満月の夜に狼へと成り果てる儚き運命に生まれた自分たちを写すかのように咲く、代々守り続けてきた花。

現在はそのほとんどを市長が独占し、薬へと作り替える。
この高台に咲く花畑はダズライトの花がただ月光を浴びる為だけにその花を開く唯一の場所である。

街とこの場所の間には樹海とまではいかないものの、それなりに深く生い茂った森がある。

その森を抜けられるのは花を守り続けてきた村の人々、すなわち狼人間達だけなのだ。

「俺の父さんと母さんが好きだった花でよ、そこから取ったんだと」

「皮肉なもんだよな、狼人間として悪者扱いされる運命を花に重ねて、そこから光を取ったんだ」

月も味方ではなく、もはや自らに運命を強制する敵でしかない。

白昼を歩けず、人の血肉を喰らわなければ燃え尽きる自分たちは、花にすら同情を求めようなんて思えない。

思えるはずもなかった。

ダズは花畑から2つ花束を作った。

ユキの手を引いて花畑より先に進む。

そこには三日月のマークが掘られた墓があった。

ダズは花束をそっと墓に供えた。

「ダズのお母さんとお父さん?」

「あぁ、父さんは俺と違ってすげぇ勇敢で、他の誰よりも強かったらしい」

「母さんは誰よりも優しくて、他の奴らの太陽みたいな人だったらしい」

墓の横に広がる野原に2人は腰掛ける。

風が月光を運ぶ。

「ユキ、俺はさ、いつかこの街を出るんだ、この街を出て、色んな町を見て、そしてまた戻ってきてさ、父さんと母さんと暮らしたこの街がこの場所が大切な所だって思いたい」

こんな話してもわかんねぇか、とダズは自分を鼻で笑った。

「ユキ、お前は何かしたいことねぇのか?」

ユキの髪が風でなびく。

きっとしっかりと手入れしていれば美しく風に乗り月明かりによって宝石のように輝いていたであろう彼女の髪がガサツにまとまってなびいている。

「私もダズと一緒に外に出たい」

「俺と一緒?」

「うん、今から行こ、すぐいこうよ!」

立ち上がったユキを見てダズは視線を落とす。

「俺たちは呪いでこの街から出られねぇんだ」

どれだけこの街が嫌いだろうと、呪いがそれを許さない。
ソフィアという街に付けられた空き缶のようにずっと引きずられていく。

「じゃ、呪い無くそう!」

「簡単に言うなよ、相手はあの市長だぜ?」

「市長強い?」

「市長は強くないだろうけど他の奴らが強いぜ」

「ダズ、市長嫌い?」

「あぁ、憎いね、すっげぇ嫌いだ」

父母の仇、呪いの元凶。

ダズの人生においてタカムラという人物にどれだけの憎悪が宿るだろうか。

「じゃ、私、家に帰る」

「はあ?」

腕を組んでウンウンと頷くユキ。

「まてまてまて、なんでそうなるんだ?」

「ダズ、市長嫌いでしょ?」

「私もパパとママ嫌い、でも逃げたら大人になれない、だからパパとママとちゃんとお話するの」

「歯の時はダズがお手本見せてくれたから次は私の番」

ダズにはユキがとても大きな人間に見えた。

自分がどれだけ小さな人間だったのだろうか、錯覚を疑うほどに今のユキは、ユキの人間の器は大きく育っていた。

「そうだな、やってみなきゃ、逃げてばっかじゃぁ、子供の、泣き虫の、弱虫のままだ!」

よしっ、と意気揚々に立ち上がったダズを見てユキは笑う。

「ユキ、なんか嫌なこと言われたらぶん殴ってやれ!」

「殴る!」

「蹴ってもいいぞ」

「蹴る!」

ダズが型のように拳を突き出したり、足を蹴りあげると、それを真似してブンブンと腕を振るユキ。

そんな調子で、この暖かな夜を2人で過ごしたあと、ダズはユキを家へ送り届けた。

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