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第017話、ムッキムキジム再び
しおりを挟む今日は休日、何しようかなと散々悩んだが、筋トレ以外の趣味がない俺は結局ジムに来ていた、前にノミー課長やヨネーさんと一緒に来た『ムッキムキジム』だ。
※ 第012話、『初めての○○』を参照
「前回は三人で来たけど、今日は俺一人だ、一通り器具の使い方はノミー課長に教えてもらったし、何をしようかな」
俺は受付に向かった、受付の女性は俺を覚えててくれたようだ、一度しか来てないのに嬉しいな。
「こんにちは~ あ、前にノミー様と来られてた方ですね、今日はお一人ですか? 案内はどうされます?」
ノミー課長がインパクト濃いから、俺の事も覚えていたのかもしれない、前に一通り器具の使い方は教わったし、今日はのんびり筋トレしてみるかな。
「前に来た時にノミーさんに教わったので大丈夫です」
「わかりました、ではごゆっくりどうぞ~」
俺はそう言って一人で中に入っていく、中を見渡すと今日も女性が多いようだ、俺も筋肉をムキムキにしたらモテるのだろうか。
「ほんとにここは女性が多いよな、 "筋トレ女子" かっこいい」
その中でもひときわ目を惹く後ろ姿の女性を見つけた、引き締まったとてもかっこいい背筋をしている、ノミー課長が『良い背筋には鬼神が宿るよ』と言っていた事を思い出した。 黙々とトレーニングをこなす女性をジーッと眺めていると、女性が振り向いた、見覚えのある女性だ。
(凄いなあの人、重たい負荷を使って黙々とトレーニングしている)
「あ、サルナス君!」
女性が声をかけてきた、前の職場でお世話になったヨシムさんだ、あの頃からこんな筋肉あったかな? もしかしたら着やせをするタイプだったのかもしれない。
※ 第001話、『仕事やめようかな、、、』を参照
「ヨシムさん! お久しぶりです、こんなとこで会えるなんて」
「久しぶりだね、元気にしてた? プロテイン飲むか?」
相変わらず、爽やかなイケメンという感じだ、すすめてくるのは甘いお菓子からプロテインに変わっていた、俺の近況をなぜか知っている。
「そういや、サルナス君もあの魔法道具屋やめたんだって?」
「はい、なんか違う道を歩んでみようかなって思って」
「それで今は治癒院で働いてるんだろ?」
「えっ? なんで知ってるんですか?」
誰から聞いたのかな、共通の知り合いで治癒院のこと知ってるのはシラハくらいだけど、シラハは捕まっているし、俺は疑問の目をヨシムさんに向けた、ヨシムさんは俺の目線に気づいたようだ。
「うちの上司に聞いた、ナカムーさんってわかる?」
たしか、ノミー課長のライバルって名乗ってたムキムキの男性だ、ヨシムさんの上司だっはたのか、そういえば良い後輩が入った、と言ってたな。
「わかります、ムキムキの男性ですよね? ひげの濃い、眉毛の濃い」
「あ~、そうそう、特徴をよく覚えてるね」
だってキャラが濃かったもん、ノミー課長と同じくらい。
「うちの治癒院は親がやってるんだけど、私は治癒師として新人だからナカムーさんの下についてるの、ここはナカムーさんから連れてこられてね、『治癒師には筋肉も必要だ!!』って力説してた」
なるほど、それがヨシムさんの素晴らしい背筋のきっかけか、ナカムーさんスパルタっぽいもんな。
「はは、なるほど、言いそうですね」
実際、俺は魔物を相手にした時は筋肉のおかげでよく動けたし、たしかに必要だよな。
※ 第009話~第010話、参照
「ここには時々きてるんだけど、思ってたより女の人が多くて、安心したよ」
「そうらしいですね、俺もここに来るまではジムは男性が多いって思ってました」
ほんと驚いた、しかもきれいな女性が多い、素晴らしい。
「それで~、可愛い女の子が目当てで、サルナス君はきたのかな~?」
ヨシムさんはニヤニヤしている。
「ち、違いますよ、元々は家でもトレーニングしてたけど、更なる筋肉の必要性を感じてジムに来たんです!」
「そんなに慌てなくても~」
ヨシムさんはまだニヤニヤしている、こんなキャラだっけ? 前はあんまり人をいじるタイプではなかったけど。
「なんか、雰囲気かわりましたね? 前も明るかったですけど、更に明るくなったというか」
「うん、いま仕事が充実してるからね、こっちの方が合ってたみたい、ナカムーさんも濃いけど良い上司だよ」
ヨシムさんは目をキラキラしている、やはりナカムーさんは誰が見ても濃いのか。
「サルナス君も変わったよね? 少し明るくなったと思う、笑顔は相変わらずだけど(笑)」
「う"っ そればかりは難しくて、、、」
笑顔については、なんだろ? 呪いなのかな、いつからこんな笑顔になったのだろう、周りが天使の笑顔だから余計に目立つよな。
「でも、男で治癒師って、今まではいなかったんでしょ? どう? 実際に働いてみて」
「そうですね、治癒師についていろいろイメージは変わりましたね、笑顔が素敵で優しい、だけじゃなくて、強いとも感じています」
(これは言いにくいが怖い時もある、表向きは天使だが、実はドSの悪魔ではないかと疑っている、そのうちヨシムさんもそんな風に染まるのだろうか)
「そうだね、私も強さも必要だなって常々感じてるよ」
「あとは、、、男なので、ボッチになるかと思いましたが、意外とみんな構ってくれて、けっこう楽しいですよ」
「へぇ~、仲良くやってるんだね、よかった、お姉さんは安心した!」
ほんと、面倒見の良いお姉さんという感じだ、ヨシムさんと話していると、ふと視線を感じる。 周りの…女性からの視線のようだ、モテ期が俺にもきたのか? でもそれにしては邪な感じの… 黒い視線だ。
「ん?」
「どうした?」
「いや、なんか視線を感じるような……」
「あ~、ごめん、たぶんそれ私のせいかも…」
「なんでですか?」
ヨシムさんは申し訳なさそうな顔をしている、イケメンな女性の困り顔も良いね、原因はヨシムさんなのか? 何も思い付かないが、ここはとりあえず聞いてみよう。
「それが、ここに通いだしてから、いろんな女の子に声をかけられてね、最初は嬉しかったけど、中には目つきが、その、怪しいというか、怖いというか…… 私はそういう趣味はないので、トレーニングに集中したいって話して、それからは落ち着いたんだけど、男の子と話しているから気になるのかも」
「あ~…」
そう言われると、視線を向けている女性達は俺を睨んでいるようにも見える、なんか怖いっす、女性でもイケメンなら女性にモテるのだな、闇討ちとかやめてね、その時は全力で逃げます。
「モテまくりですね、羨ましい」
「ん~、できたら男の人にモテたいけど、あんまりそういう雰囲気にはならないのよね、お酒を飲みにいっても、最終的には肩を組んで笑いあって、歌ってるしね」
たしか、新人歓迎会でもそんな感じだったな、最初は俺も照れてたが、話しやすいし、気前いいし、兄貴って感じがしたもんな、このまま鍛えていけば更に "兄貴ー!" になるのではないだろうか。
「そういや、ヨシムさん、凄いトレーニングしてましたよね、あれってかなり重たいでしょ?」
「うん、普通はあの半分くらいかな、ナカムーさんがスパルタでね、鍛えてるうちにあの重さが当たり前になったよ」
少し興味はあるな、半分なら俺でもいけそうだし、俺はヨシムさんが使ってた器具をジーッと見つめる。
「俺もやってみようかな」
「する? 手伝うよ」
ヨシムさんは嬉しそうに手伝ってくれた、周囲の女性からの目線は更に怖くなった、怖いからその目はやめて、お願いします。
***
器具の名前は『ラットプルダウンマシン』
背筋を鍛えるのに最適なマシンだ。
使い方は
01-上から "⊥" の形をしたバーがぶら下がっている、その先には重りがついており、重さを調整できる。
02-マシンに座って、肩幅よりも広めに手を開き、両手でバーを持つ。
03-バーを上に持ち上げ、やや身体の前へ持ってくる。
04-ゆっくりとバーを下げる、胸に向かってバーを引きよせるために、ひじを閉じるように腕を動かす。
05-素早く元の姿勢へ戻す動作を繰り返す。
***
ヨシムさんは俺を器具に座らせて、説明を始める、だんだん声が大きくなり、テンションあけあげになってあるようだが、大丈夫かな、目が少し怖い。
「背中を鍛えることで姿勢もが良くなる! 肩や首のコリもとれる! そして脂肪も燃焼しやすくなり…… 痩せる!!」
ヨシムさんは熱く語った、そしてヨシムさんの合図に合わせて器具を動かす、とりあえず重量はヨシムさんの半分で、ヨシムさんの合図に合わせて上げ下げしてみるが、けっこう速い、キツイ。
「はい! 1・2、1・2、、、 はい! もっと速く! 遅いっ! はやーく!」
ヤバい、なんかヨシムさんの目がヤバい、すでにヨシムさんはドSの天使に汚染されているのでは、あんなに優しかったのに変わり果てて。
「あの、もう少しゆっくり……」
「口答えしない! 黙ってやる!」
「はい~~っ!!」
***
「はぁー、はぁー、ぜひー……」
「ごめんごめん、つい張り切っちゃった」
「……」
俺は返事ができない、無言で昇天している、頭から湯気も出てる、ヨシムさんの謝り顔もイケメンだ。
「ごめんって、ね!」
ヨシムさんは可愛い笑顔をしている、なんかとてもスッキリした笑顔だ、治癒師ってストレスたまるのかな。
「いいえ、良いトレーニングになりましたよ」
俺は何とか答えた、研修の時もそうだったけど、治癒師ってこんなん多いのか? やはりドSの天使なのでは? 汚染区域が広がるのを食い止めたいけど、もう遅いのかも。
「さて次は……」
「あっ、ヨシムさん、お腹すきません? 昼御飯どうですか?」
(今日はもういいっ! ドSの天使はもうお腹いっぱい)
俺は会話を変えて食事の話題を出した、甘いスウィーツなど、ヨシムさんなら好きそうだ。
「もうそんな時間? そうね、気になってる店があるんだけど一緒に行く?」
「はい、行きます」
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