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あなたがほしいものは? ☆
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「こ……工房は無事なんですか?」
「半壊しているよ。しばらく休みだね。麓には連絡したから、監査も先延ばしだ」
――半壊だなんて……。
落雷による魔術道具の故障も魔物の襲撃も夢ではなく現実にあったことのようだ。不運である。こんなことはベリンガー工房が稼働してから一度もなかったはずだ。
「私は……お役に立ちました?」
不安で尋ねれば、ディオニージオス所長は行為の手を止めた。彼の眼鏡に私の顔が映っている。今にも泣き出してしまいそうな私の顔だ。
ディオニージオス所長は困ったように笑った。
「君がいたから、作業室は無事だったんだ。誇っていい」
「魔力供給、うまくいったんですね」
「ああ。ナディア君とは魔力の相性がいいようだ」
首に口づけを受けて、私は甘く震えた。身体が快感を求めている。
「だめ……これ以上は」
魔力供給はもう不要のはずだ。だからこのまま行為に及ぶということは快楽のためとなってしまう。ここは私の職場なのだ。快楽のための行為を続けることは認められない。
耳元にディオニージオス所長の唇が触れる。
「今日は誰も来ないよ」
「そういう問題では……ああんっ」
内腿を擦り合わせて逃げたのに、秘部に指先が当たった。不意に心地のいい場所に当たって声が抑えられない。
「動けなく、なっちゃう、からぁっ!」
「そのときは僕が君を運ぶよ」
「そういう問題でもなくってぇ、やっ、ああん」
的確に刺激されると喋れなくなってしまう。身体をくねらせて逃げようとする私を、ディオニージオス所長は興奮気味な赤い顔で見下ろした。
「君は快感に弱いのかな」
「知らな、いっ、ひゃ、やっああっ!」
ビクンと身体が跳ねた。汗が吹き出し、呼吸が乱れる。
「やだ、ディオ、ここじゃ」
「では、どこでなら構わなくなるのかな?」
喘ぐようにヒクヒクと震わせる蜜口を撫でながらディオニージオス所長は私を見つめている。私を求める視線に、身体は素直に従ってしまいそうだ。
――私だってディオが欲しい。
ただ、欲のままに動いたら体がもたないことも明白なのだ。残業でヘトヘトなのだから、休むべきだと考えている。
「ナディア君、僕は君が欲しいんだ」
私の答えを待ちきれなかったのだろう。ディオニージオス所長は溢れ出る蜜で水音を奏でながら訴えてくる。私も同じ気持ちではないのかと言わせようとばかりに指が動く。
「そ、それは……私の身体が、ですか? 私の魔力が、でしょうか?」
必要ならば彼に差し出してもいいと思っている。私の愛する人が望むことなら叶えたいではないか。これから進む道が違えてしまうことが明白なのだから、思い出の一つに変えたいもの。
震える声でたどたどしく問えば、ディオニージオス所長の指が止まった。悲しげな表情を浮かべた彼の唇がわなわなと震えている。
「……君からの愛が欲しいんだ」
ボソリとつぶやいて、ディオニージオス所長は私を解放した。立ち上がり、すぐに背を向ける。
「――いや、もういい。徹夜してしまったからだろうね、理性で制御できないんだ……言い訳ばかりで、すまない」
突き放すようにはっきりと告げて、ディオニージオス所長は雑に自身の頭を掻いた。白髪混じりの癖の強い髪が余計にボサボサになる。
「所長……」
――所長の本心は?
疲労による理性の崩壊で誰でもいいから人肌を欲しているのだろうか。それとも、理性で抑えてきた私への想いが解放されてしまったのだろうか。
――後者だったら……ううん、それは私が都合よく解釈しているだけよ。
ずっと憧れていた人に抱かれた。想像していたよりもずっと激しいものではあったけれど、傷つけられたとは思っていない。もっと愛のある行為であってほしかったとは考えてしまうけれど、それは私が欲張りなだけ。魔力供給という名目がなければ触れ合うことなどなかったのだから。
自分に何度も言い聞かせる。良い夢を見させてもらったんだからそれでいいじゃないか。
でも私は、諦められなかった。
「半壊しているよ。しばらく休みだね。麓には連絡したから、監査も先延ばしだ」
――半壊だなんて……。
落雷による魔術道具の故障も魔物の襲撃も夢ではなく現実にあったことのようだ。不運である。こんなことはベリンガー工房が稼働してから一度もなかったはずだ。
「私は……お役に立ちました?」
不安で尋ねれば、ディオニージオス所長は行為の手を止めた。彼の眼鏡に私の顔が映っている。今にも泣き出してしまいそうな私の顔だ。
ディオニージオス所長は困ったように笑った。
「君がいたから、作業室は無事だったんだ。誇っていい」
「魔力供給、うまくいったんですね」
「ああ。ナディア君とは魔力の相性がいいようだ」
首に口づけを受けて、私は甘く震えた。身体が快感を求めている。
「だめ……これ以上は」
魔力供給はもう不要のはずだ。だからこのまま行為に及ぶということは快楽のためとなってしまう。ここは私の職場なのだ。快楽のための行為を続けることは認められない。
耳元にディオニージオス所長の唇が触れる。
「今日は誰も来ないよ」
「そういう問題では……ああんっ」
内腿を擦り合わせて逃げたのに、秘部に指先が当たった。不意に心地のいい場所に当たって声が抑えられない。
「動けなく、なっちゃう、からぁっ!」
「そのときは僕が君を運ぶよ」
「そういう問題でもなくってぇ、やっ、ああん」
的確に刺激されると喋れなくなってしまう。身体をくねらせて逃げようとする私を、ディオニージオス所長は興奮気味な赤い顔で見下ろした。
「君は快感に弱いのかな」
「知らな、いっ、ひゃ、やっああっ!」
ビクンと身体が跳ねた。汗が吹き出し、呼吸が乱れる。
「やだ、ディオ、ここじゃ」
「では、どこでなら構わなくなるのかな?」
喘ぐようにヒクヒクと震わせる蜜口を撫でながらディオニージオス所長は私を見つめている。私を求める視線に、身体は素直に従ってしまいそうだ。
――私だってディオが欲しい。
ただ、欲のままに動いたら体がもたないことも明白なのだ。残業でヘトヘトなのだから、休むべきだと考えている。
「ナディア君、僕は君が欲しいんだ」
私の答えを待ちきれなかったのだろう。ディオニージオス所長は溢れ出る蜜で水音を奏でながら訴えてくる。私も同じ気持ちではないのかと言わせようとばかりに指が動く。
「そ、それは……私の身体が、ですか? 私の魔力が、でしょうか?」
必要ならば彼に差し出してもいいと思っている。私の愛する人が望むことなら叶えたいではないか。これから進む道が違えてしまうことが明白なのだから、思い出の一つに変えたいもの。
震える声でたどたどしく問えば、ディオニージオス所長の指が止まった。悲しげな表情を浮かべた彼の唇がわなわなと震えている。
「……君からの愛が欲しいんだ」
ボソリとつぶやいて、ディオニージオス所長は私を解放した。立ち上がり、すぐに背を向ける。
「――いや、もういい。徹夜してしまったからだろうね、理性で制御できないんだ……言い訳ばかりで、すまない」
突き放すようにはっきりと告げて、ディオニージオス所長は雑に自身の頭を掻いた。白髪混じりの癖の強い髪が余計にボサボサになる。
「所長……」
――所長の本心は?
疲労による理性の崩壊で誰でもいいから人肌を欲しているのだろうか。それとも、理性で抑えてきた私への想いが解放されてしまったのだろうか。
――後者だったら……ううん、それは私が都合よく解釈しているだけよ。
ずっと憧れていた人に抱かれた。想像していたよりもずっと激しいものではあったけれど、傷つけられたとは思っていない。もっと愛のある行為であってほしかったとは考えてしまうけれど、それは私が欲張りなだけ。魔力供給という名目がなければ触れ合うことなどなかったのだから。
自分に何度も言い聞かせる。良い夢を見させてもらったんだからそれでいいじゃないか。
でも私は、諦められなかった。
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