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淫夢ではなかったらしいけれども。 ☆
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酷い夢だ。淫夢というものだろう。深夜の工房にディオニージオス所長が訪ねてきて体を重ねた。愛情表現ではなく、魔力供給の処置としての行為。
カーテンの隙間から漏れる朝日を受けて、私はゆっくり上体を起こす。頭は痛いし体は重い。股間から何か溢れる気配がして、私は毛布を恐る恐るめくった。
「え、なに」
何も身につけていない白い肌に、白っぽいどろりとしたものが付着している。赤い色のものは血だろうか。経血ではなさそうだ。
よく見ると、シーツも汚れている。
「夢じゃない?」
自分の声が掠れ気味なのは、たんに寝起きだからというわけではなさそうだ。一体どこからどこまでが現実なのだろう。
私が頭を抱えながら記憶を辿っていると、作業室の扉がゆっくりと静かに開いた。お茶の匂いが部屋に入る。この独特な甘い香りは所長の好きな薬草茶のものだ。
「起きたのか」
はっとドアを見やれば、カップが載せられたお盆を持った大柄な男――ディオニージオス所長が立っていた。彼の視線が私の肌をなぞる。
「……明るい場所で見る君もなかなか扇情的だね」
「へ?」
さわやかに告げられて、私は慌てて毛布で体を覆った。
昨夜は暗かったからまだマシだったが、この明かりでは毛の一本一本までよく見えたことだろう。急な泊まりで手入れが行き届いていない肌を晒してしまったことが恥ずかしくてたまらない。
「お、お見苦しいものを……」
「そんなことはないよ」
「忘れてください」
服はどこにやったのだろう。私が服を探すためにキョロキョロしていると、ディオニージオス所長はすぐ近くまでやってきた。作業台にお盆を置いて、私の隣に片膝をつく。
「意中の女性の裸を、そう簡単に忘れたくはないのだが。ナディア君が迷惑だと言うなら、記憶は消しておく」
そう言われたことに驚いて彼の方を向くと、思いの外近くに彼の顔があった。
精悍な顔つきだと表現されるだろう彼の顔が私は好きだ。こんなに近くで見たことはないので思わずじっくりと観察してしまう。下山する時には薄っすらと髭が生えていたように記憶していたが、今はつるりと綺麗に整えられていることに気づいた。
そうして見つめていた間に私は口づけをされる。突然のことにびっくりして逃げようとしたのに彼の手に捕まってうまくいかない。
「んんんっ」
首の後ろを彼の大きな手で支えられると、舌が口の中に入り込んだ。追い出すつもりで舌をくっつければ、待っていたとばかりに絡め取られた。
――夢じゃない。
秘所が濡れる。唇が離れると、銀糸が伸びた。
「なかったことにするなら、君をもう一度抱きたい」
「なぜ?」
「僕の気持ちは迷惑なのだろう? これっきりにするから、この恋心を昇華したいんだ……僕の勝手に巻き込まれた君は不愉快だろうけど、止める気はないから」
布団に押し倒されて首を舐められる。ゾクゾクとして甘い声が漏れた。
「しょ、しょちょっ」
「昨夜はディオって呼んでくれた」
「話を、聞いて」
「僕を拒む言葉は要らない」
快感を生むように胸が揉みしだかれる。臍の下あたりが疼いて、快感に意識が引っ張られる。
「ああっ……ディオ」
「なにかな?」
名を呼んだことに気をよくしたのか、彼は私を見下ろした。
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