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所長、見なかったことにしてください!
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「しょ……所長、ですか?」
「ああ、その手のものは……?」
指摘を受けて、私は慌てて背中に玩具を隠したが、結果として前が丸見えになっていることに気づいてさっとしゃがんだ。
「はわわわ……全部見なかったことにしてください!」
毛布を手に取って頭からすっぽりと被ると、私はディオニージオス所長に背を向けた。
心臓が忙しい。
――マズいマズい! すっぽんぽんなところを見られただけでなく、玩具握り締めているところまでバッチリ見られちゃった!
血の気が引きそうなシチュエーションだというのに、なぜか身体は興奮している。私は思わず玩具を強く握った。
――は、早く出て行ってくれないかな……。
なんの用事で戻ってきたのだろう。こんな夜更けに、生命の危機があるとも言われている山を登って来るなんて。
「ナディア君」
「よ、用事があるなら、私にお構いなくっ」
「僕は君のことが心配になって様子を見に来たんだよ」
優しい声に、私は顔だけ出してディオニージオス室長を見上げる。
ディオニージオスは熊のような大柄な男だ。肩幅は広くてがっちりしているのは、大型の魔術道具を作るのに役立っている。魔術師でもあるが体術も得意であり、この体格が戦闘では優位に働く。自分で魔術道具の材料を採取に行くこともあるので、筋力も体力もあるのは間違いない。私より二十以上歳上だけど、その辺の若者には負けないだろう。
ちょっと強面で、眼鏡が似合うオジサマだ。眼鏡は視力が弱いからではなく、魔力にあてられないようにするためだと昔聞いた。日常的につけている必要はないのだが、面倒なので眼鏡装着なのだそうだ。とても似合うからいいと思う。
――いつ見ても素敵だな……って、そうじゃない。
抱いてくれないか、なんて不埒な欲望がよぎったので、私は小さく首を振った。
「ええっと……私の心配、ですか?」
「今夜はここで泊まるだろうから」
「ですが、所長、私を置いて先に帰られましたよね? 昨夜、帰宅していないからと」
他の所員は帰って行ったが、所長は遅くまで付き合ってくれた。泊まりが確定したところで、所長は安全を確認して帰宅したはずなのだ。
――この工房を守るのに必要な魔術道具は全て起動させてくれたし、なんの問題もなかったはず。
私が首を傾げると、ディオニージオス所長は私の近くに寄って片膝をついた。
「帰宅したところで気づいたんだ。その……枕に媚薬が付着したままであることに」
「……思いっきり嗅いでしまいました」
「だろうね……」
気まずそうにディオニージオス所長は私が体に巻いた毛布を見やって、大きく息を吐き出した。
「なぜ、媚薬が? 片付け中に手を滑らせてしまった、とか?」
沈黙に耐えられなくて私が興味本位で尋ねれば、ディオニージオス所長は首を横に振った。
「では、使ったんですか?」
それはないだろうと思って質問をぶつける。
ディオニージオスには恋人がいない。これまでも浮ついた話はなかったと聞いている。それは魔術道具の研究に勤しんでいたからであるのだろう。貴族の家柄であるため、若かりし頃に婚約者がいたそうだが、アカデミーで勉学に励んでいる間に駆け落ちしてしまったそうだ。以来、婚約者もいない。
私が無邪気に聞けば、ディオニージオス所長は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
――ええっと、この反応は。
「その……すまない」
「あ、いえ、別に使ってもいいと思いますよ。職場で、というのは、まあ、気にはなるところですけど、工房は所長のものですし……そういう気分になりたい時も、ありますよね。急な仕事で大変でしたし」
この話題は変えよう。私は早口で喋って、明後日の方向を見つめた。気まずい。
「正気じゃなかったんだ」
「ですよねー。私も、慣れない仕事で頭の中めちゃくちゃで」
「そうじゃない!」
急な大声に、私はびっくりした。体を震わせて、ディオニージオス所長を見る。
彼は私をじっと見つめていた。彼の瞳に熱を感じてしまったのは、私が媚薬の影響を受けているからだろう。
「ナディア君」
「はい」
「君と離れたくないんだ」
「はい?」
状況がわからない。
きょとんとしていると、毛布ごとディオニージオス所長に抱き締められた。
「あのっ?」
「嫌なら突き飛ばして」
「嫌ではないですけど……」
毛布の下は何も身につけていないので心許ないのだが、別にそれだけである。
「ならば、このまま聞いて欲しい」
「はい」
何を聞かされるのだろう。私は静かに耳を傾ける。
「ああ、その手のものは……?」
指摘を受けて、私は慌てて背中に玩具を隠したが、結果として前が丸見えになっていることに気づいてさっとしゃがんだ。
「はわわわ……全部見なかったことにしてください!」
毛布を手に取って頭からすっぽりと被ると、私はディオニージオス所長に背を向けた。
心臓が忙しい。
――マズいマズい! すっぽんぽんなところを見られただけでなく、玩具握り締めているところまでバッチリ見られちゃった!
血の気が引きそうなシチュエーションだというのに、なぜか身体は興奮している。私は思わず玩具を強く握った。
――は、早く出て行ってくれないかな……。
なんの用事で戻ってきたのだろう。こんな夜更けに、生命の危機があるとも言われている山を登って来るなんて。
「ナディア君」
「よ、用事があるなら、私にお構いなくっ」
「僕は君のことが心配になって様子を見に来たんだよ」
優しい声に、私は顔だけ出してディオニージオス室長を見上げる。
ディオニージオスは熊のような大柄な男だ。肩幅は広くてがっちりしているのは、大型の魔術道具を作るのに役立っている。魔術師でもあるが体術も得意であり、この体格が戦闘では優位に働く。自分で魔術道具の材料を採取に行くこともあるので、筋力も体力もあるのは間違いない。私より二十以上歳上だけど、その辺の若者には負けないだろう。
ちょっと強面で、眼鏡が似合うオジサマだ。眼鏡は視力が弱いからではなく、魔力にあてられないようにするためだと昔聞いた。日常的につけている必要はないのだが、面倒なので眼鏡装着なのだそうだ。とても似合うからいいと思う。
――いつ見ても素敵だな……って、そうじゃない。
抱いてくれないか、なんて不埒な欲望がよぎったので、私は小さく首を振った。
「ええっと……私の心配、ですか?」
「今夜はここで泊まるだろうから」
「ですが、所長、私を置いて先に帰られましたよね? 昨夜、帰宅していないからと」
他の所員は帰って行ったが、所長は遅くまで付き合ってくれた。泊まりが確定したところで、所長は安全を確認して帰宅したはずなのだ。
――この工房を守るのに必要な魔術道具は全て起動させてくれたし、なんの問題もなかったはず。
私が首を傾げると、ディオニージオス所長は私の近くに寄って片膝をついた。
「帰宅したところで気づいたんだ。その……枕に媚薬が付着したままであることに」
「……思いっきり嗅いでしまいました」
「だろうね……」
気まずそうにディオニージオス所長は私が体に巻いた毛布を見やって、大きく息を吐き出した。
「なぜ、媚薬が? 片付け中に手を滑らせてしまった、とか?」
沈黙に耐えられなくて私が興味本位で尋ねれば、ディオニージオス所長は首を横に振った。
「では、使ったんですか?」
それはないだろうと思って質問をぶつける。
ディオニージオスには恋人がいない。これまでも浮ついた話はなかったと聞いている。それは魔術道具の研究に勤しんでいたからであるのだろう。貴族の家柄であるため、若かりし頃に婚約者がいたそうだが、アカデミーで勉学に励んでいる間に駆け落ちしてしまったそうだ。以来、婚約者もいない。
私が無邪気に聞けば、ディオニージオス所長は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
――ええっと、この反応は。
「その……すまない」
「あ、いえ、別に使ってもいいと思いますよ。職場で、というのは、まあ、気にはなるところですけど、工房は所長のものですし……そういう気分になりたい時も、ありますよね。急な仕事で大変でしたし」
この話題は変えよう。私は早口で喋って、明後日の方向を見つめた。気まずい。
「正気じゃなかったんだ」
「ですよねー。私も、慣れない仕事で頭の中めちゃくちゃで」
「そうじゃない!」
急な大声に、私はびっくりした。体を震わせて、ディオニージオス所長を見る。
彼は私をじっと見つめていた。彼の瞳に熱を感じてしまったのは、私が媚薬の影響を受けているからだろう。
「ナディア君」
「はい」
「君と離れたくないんだ」
「はい?」
状況がわからない。
きょとんとしていると、毛布ごとディオニージオス所長に抱き締められた。
「あのっ?」
「嫌なら突き飛ばして」
「嫌ではないですけど……」
毛布の下は何も身につけていないので心許ないのだが、別にそれだけである。
「ならば、このまま聞いて欲しい」
「はい」
何を聞かされるのだろう。私は静かに耳を傾ける。
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