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3:魔導師として宮廷入りしたので、これは予期せぬ事態です。

幸せなはずなのに※3章完結

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 幸せなはずなのに何かが引っかかる。五日間昏睡状態だったというが、その原因が思い出せない。何があったのだろうか。

「メルヒオールさまは……お仕事はよろしいんですか?」

 何度目かの吐精を受け入れて果てたあと、アルフォンシーヌは背後から抱き締められた状態で横になっていた。

「今は三日後に控えた殿下の護衛に備えて、支度をする期間です。アルも一緒に行くのですから、魔力を整えないといけません」

 なるほど、万全の状態で挑むためには、こうして魔力の供給を受ける必要がある。自然回復分を勘定に入れるにしても、かなりギリギリの日数だ。

「こんな状態ですが、お供できますかね?」
「出来る限り同行するようにとのことですから、それまでにはどうにかしますよ」

 髪を撫でてくれるメルヒオールの言葉にはため息が混じる。

「……出来の悪い弟子で申し訳ないです」

 足を引っ張ってばかりいるのだと理解できた。余計な仕事を増やしてしまっている自覚が芽生え、胸が痛む。
 不得手な魔法に取り組んで失敗を重ね、メルヒオールの名声に泥を塗っている程度はまだ研修生ということもあって開き直ることができた。
 だが今はどうだろう。
 襲われているときに彼は必ず助けに来てくれる。どこにいても駆けつけてくれる。魔力が尽きたときも、他の業務が残っているだろうに、こうしてアルフォンシーヌの面倒をみて心配してくれる。

 あたしはなにをやっているんだろう……。

 メルヒオールに謝ると、腰に巻かれていたほうの腕に力が入った。

「君の世話をやくのは好きですから、お構いなく。そうでなければ、師弟関係はとうの昔に破棄していますよ」

 そう耳元で囁くと、はむっと耳朶をくわえる。その刺激に身体がピクッと反応した。

「メルヒオールさま……あたし、あなたを愛しています。好きです、全部……だから、あなたの足枷にはなりたくない」

 泣きそうな気分になる。でもここで涙を見せるわけにはいかない。

「足枷にはなっていませんよ。俺の心配はしないで。君は君のことだけを考えて」

 師匠、優しすぎ……。

 辛辣な物言いが多い彼が皮肉の一つも言わないのが妙だ。アルフォンシーヌは、それが自分への愛情の表れであるとは、なぜか素直に思えなかった。
 不意にメルヒオールに耳元で囁かれる。

 あれ……まぶたが重い……。

 眠りの魔法をかけられたのだと理解したとき、意識は夢の中に溶けていた。

《第3章 完》
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