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3:魔導師として宮廷入りしたので、これは予期せぬ事態です。
師匠が優しいなんて、つまりそういう…… 2
しおりを挟むすると、メルヒオールはアルフォンシーヌの前髪を持ち上げて顔を覗き込んだ。
「大仰なことなどありますか。君は俺が宮廷に戻るまでの五日間、昏睡状態だったのですよ。モニックですら君を起こせないと音をあげてしまって、どれだけ周囲に心配をかけたことか。――まったく、俺がいない間に何をしでかしたのです?」
「え……?」
五日間の昏睡状態。精神系の魔法に精通している師範代のモニックでさえ目覚めさせることができないレベルの。
メルヒオールから与えられた情報を、アルフォンシーヌは処理できなかった。ただ目を瞬かせる反応のみ。
「……あ、ああ、まだ休んだほうがいいですね。栄養も補給したほうがいいでしょう。事情聴取は回復してからで」
そう告げられると、空腹を感じた。頭が回らないのは栄養不足だからというのもあるのかもしれない。
メルヒオールの身体が離れていく。温もりが遠くなっていくのを感じて寂しく思うと同時に、自分が素っ裸であることに意識が向いた。
ん? んん?
この状況の話を聞こうとメルヒオールに目を向ければ、彼もまた素っ裸であり、宮廷魔導師の制服を着込むところだった。
「あの、師匠?」
「俺の魔力を送り込んで、内部から働きかけたのですよ。教えたでしょう?」
何を訊こうとしていたのかお見通しだったらしい。メルヒオールは端的な返事をくれた。
「何があったのか存じませんが、君の魔力はほぼ枯渇していましたので、その処置も兼ねています。――ほら、いつまでもぼうっとしていないでください。着替えて食事をしましょう。それとも、俺の介助が必要なほど弱っているのですか?」
心配して言っているのか、皮肉で投げかけた言葉なのか判別がつかない。その程度にまで自分が弱っているのかとも言えたし、メルヒオールが予期せぬ事態に遭遇して動揺したままなのだとも言えそうな気がする。
アルフォンシーヌがベッドから出ようと身体を動かすと、すっと力が抜けて床に落ちた。
「アル!」
「だ、大丈夫ですって」
「わかりました。世話をして差し上げますから、そこにいなさい」
慌てて戻って来たメルヒオールに抱えられ、ベッドに戻される。こんなに真っ青な顔をしているメルヒオールを見たことがない。そんな様子から、事態の緊迫した状況を察せられる。
これは従ったほうがよさそうね……。
「は、はい……お手数おかけして申し訳ないです……」
しゅんとして頷けば、メルヒオールは頭を優しく撫でた。
「弟子の面倒をみるのは師匠の仕事の一部でもあるのです。お気になさらず」
珍しい台詞だ。アルフォンシーヌがすぐに見上げると、メルヒオールは顔を見られまいとするかのように踵を返したのだった。
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