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2:魔導師として宮廷入りしたので、研修生には課題があります。

二人ですること

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「はっ? ここは僕の庭ですよ。そう簡単に負けを認める僕ではない!」

 地面が揺れる。地割れが走ったかと思えば、その隙間から樹木の根のようなものが勢いよく顔を出す。
 その一つにラウルは飛び乗った。

「魔養樹に吸い尽くされてしまえ!」

「まったく……愚かな人間が相手だと、手間が増えて厄介ですね」

 メルヒオールはふっと笑い、アルフォンシーヌの手を引く。さっと抱き上げると高く跳躍した。人ひとりを抱えて跳べる高さではない。

 風の魔法?

 呪文を唱えている様子もなければ、印を結んでいる様子もなかった。なのに魔法が発動している。

 あれ? よく考えたら、師匠の戦闘を見るのって初めて?

 メルヒオールの得意分野は攻撃魔法のはずだが、戦闘訓練で相手になったことはない。アルフォンシーヌの経験がないだけでなく、任命式で披露される演武でも見覚えがなかった。宮廷魔導師のほぼ全員が集う場での演武は、たいていの教官がしていたはずなのに。
 疑問に思っていたのもつかの間、メルヒオールたちを追って急速に伸びる根をかわし、あるいは乗るなどして森の奥へと逃げ込むラウルとの距離を縮めていく。

「ははっ、師範代のくせに追うだけとは芸がないですね。彼女を手放せばいいのに」

「このくらいのハンデがあったほうがちょうどいいと思いますよ」

 ラウルが挑発すれば、メルヒオールは薄く笑って流す。

 この顔は、何か策がある?

 メルヒオールが苦戦しているようには見えない。着実に距離を縮めているし、このまま精神系魔法の射程距離まで迫ってしまえば、メルヒオールの勝利が見えてくる。

「……アル?」
「はい?」

 メルヒオールの薄く整った唇が素早く動く。風の精霊魔法で巧妙に音が消されているが、唇の動きだけでアルフォンシーヌには何を言っているのか読み取れた。

 ああ、なるほど、それであたしを連れてきたのか。

 理解すると、アルフォンシーヌはメルヒオールに目配せをして承知の意を示した。
 標準的な成人男性が両腕を広げた長さの三倍ほどの距離まで接近。樹木の間を掻き分けて出てきた蔓や地中から這い出てきた根を使い逃げるラウルを追い詰めつつある。
 現在位置は森の上空。眼下には新緑が広がり、その遠方には微かに王宮の姿が見えた。
 追い詰められているはずのラウルが笑う。

「師範代といえど、風の精霊を使っている最中に他の精霊の力までは使えないでしょう? これで終わりだ、メルヒオール・ファイエ!」

 ラウルの両手がアルフォンシーヌたちに向けられた。
 魔力の昂まりが肌で感じられる。
 森がざわめいた。
 一瞬耳鳴りがして、眼下の森が一斉に動き出す。
 枝が、蔓が、根が、植物の形を歪めてアルフォンシーヌとメルヒオールを目掛けて伸びてくる。
 今だとばかりに、メルヒオールが口の端をあげて笑んだ。

 発動しろっ!

 火種はわずかでいい。あとはメルヒオールが風で増幅させるから。
 パチッと火花が弾けた。
 アルフォンシーヌが結んだ印により小さな炎が生まれ、メルヒオールの作る風に乗ってたちまちに炎の竜となる。

「なっ!」

 ラウルの狼狽える声。それを合図にするかのように、巨大な炎の竜が迫り来る植物を片っ端から焼き払い始める。
 森の全てを焼き尽くす勢いを見たからか、ラウルは悔しそうに奥歯を食いしばり手を下げた。植物たちが元の姿に戻っていく。

「……卑怯だ」

「俺の弟子を甘くみるからです」

 がっくりと地面に伏せるラウルに、メルヒオールが冷たく言い放つ。

「別に、君の得意分野で応じて勝っても構わなかったのですよ? ですが、ずいぶんといいようにしてくださったみたいですからね、このくらいしてやらないと気が済まないというものです」

 ラウルの得意分野でも勝てると言い切ると同時に、地に伏せていたラウルの巨体を近くの蔓が絡め取って身動きを封じていく。

「くっ……」

「さてと、次はこちらですね」

 ラウルの拘束を確認すると、メルヒオールはアルフォンシーヌを引っ張って歩き出す。アルフォンシーヌは戸惑った。

「し、師匠? 彼を放置して離れちゃってまずくないですか……?」

 大股で歩く姿に、苛立ちを読み取れる。
 半ば引きずられるようにしてラウルの視界から外れる位置にやってくると、アルフォンシーヌは太い幹に背中を押し付けられた。
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