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1:魔導師として宮廷入りしたので、そのお仕事はお引き受けしかねます!

意図せず歯車は噛み合って 1

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 魔力を失っている状態がここまで不便だと感じたことはアルフォンシーヌにはなかった。

 ふだんであれば感知できたはずなのに、情事があった部屋から出た瞬間に襲われたからだ。

「んんっ!」

 こんなときには威嚇の炎で対処するところなのに、今はそれができない。身体がだるいこともあって、対応が遅れてしまった。

 速やかに男二人に拘束されたアルフォンシーヌは、口を塞がれ引きずられるように連れ去られた。




 王宮内にある温室は、春になったばかりであるのに暑いくらいだ。様々な地域から集められた多種多様な植物がひしめき合っている。

 どうしてこんな場所に……?

 アルフォンシーヌが訝しがっていると、温室の中央にある広場まで運ばれた。立ち止まるなり口を塞がれたまま顔を上げさせられる。正面には見知った顔があった。

「ごきげんよう、アル。気分はいかが?」

 金髪をシニョンにしている美少女――ジャクリーヌ・ヴィスコンティが冷たい微笑みを浮かべてアルフォンシーヌに話しかけてきた。

「これはなんのマネよ?」

 口だけ解放されると、ジャクリーヌの問いには答えずに質問してやった。状況がわからない。

 問えば、友人同士とは思えないような突き放す視線を向けられた。

「メルヒオール先生と寝たんでしょ?」

「ええ、たぶん……」

 腹の底から響くひんやりとした声に小さく震えながら、アルフォンシーヌは頷く。

 ジャクリーヌはアルフォンシーヌがメルヒオールに恋していることを知っているはずだ。彼女の師匠がモニックなので、直接そう話したことはなくても気づいていると思っていた。

 祝福の言葉をかけてこないってことは、まさか……。

 誰もが喜んでくれるとは思っていなかったが、これほどまでに怒りを買う理由は一つぐらいしか思い浮かばない。色恋沙汰に縁遠いアルフォンシーヌにも、想像するのはたやすかった。

 彼女もまたメルヒオールが意中の男性だったのだろう。

「たぶん、ってなによ? 正直に言えばいいでしょ? 愛する人と結ばれましたって報告する義務があんたにはあるんじゃなくって?」

 ジャクリーヌに顎を掴まれて、視線を合わせられた。

「それがその、あいにくと意識が混濁していたもので」

 どう答えたらいいものなのか、アルフォンシーヌにはわからなかった。

「はぁ? あの部屋からメルヒオール先生が出てきたのは知っているのよ? あんたの魔力をまとっていたから、そういうことだと――ああ、別にあんたの記憶はどうでもいいわね」

 アルフォンシーヌを捕らえていた男たちにジャクリーヌが視線で指示を出す。

「ひゃっ⁉︎」

 体勢が変わる。地面に転がされたと思うと、手足を強く押さえつけられる。身動きが取れない。

「今のあんたは魔法を使えないから怖くないわ」

「何をするつもり?」

 嫌な予感がする。一刻も早く脱出せねばと思うのに力が出ない。アルフォンシーヌは冷や汗をかいた。
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