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1:魔導師として宮廷入りしたので、そのお仕事はお引き受けしかねます!
目が覚めると
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身体から魔力が抜け切っている。精霊王の加護を感じない朝というのはアルフォンシーヌには初めてだ。
って、のんきに寝ている場合じゃないわ!
アルフォンシーヌは目をかっと見開く。勢いよく上体を起こすと、下肢にだるさを感じ取った。そしてドロリとしたものが股からこぼれ落ちる感覚に気づいて、かけられていた毛布を躊躇せずめくった。
夢じゃないんだ……。
シーツに残る赤いシミは破瓜の跡だろう。むき出しの肌は綺麗なままに思えたが、内腿のあたりに血のようなものと白濁したものがこびりついていて、昨夜の情事を想起させた。
待って……なんであたしは一人きりなのよ……。
記憶を呼び起こす。あのとき《メルヒオール》は「あとで話す」と言っていたのではなかったか。
ふだん使っているベッドよりもずっと豪奢なその上で、まさか置き去りにされるとは思わなかった。
あー、でも、相手は師匠だしなぁ……。
メルヒオールが優しさを期待できない相手であることを思い出し、アルフォンシーヌは頭を抱えた。
本当にメルヒオールさまだったのかしら……?
昨夜のことが理解できない。処女を奪われたらしいことは身体の状態から考えるに確かであるが、それ以外の全てが疑わしく感じられた。
アルフォンシーヌがベッドサイドのテーブルを見やると、小さな瓶が一本置いてあるのが目に入る。毛布に身を包んで近づくと、封筒がセットになっているのに気がついた。
封筒には王家の紋章が刻まれた封蝋が施してある。もちろん未開封だ。
王族からの手紙……?
昨夜現れるはずだったのはリシャール殿下である。手紙が置かれていることに大きく不審な点はない。
じゃあ、あれはリシャール殿下だったってこと? 魔法を使って、メルヒオールさまに見せかけた……とか。
そう考えてみるが、リシャール殿下がわざわざそんな手間をかけてまでアルフォンシーヌを抱く理由がない。それに王妃や寵妃の選定であれば、本人のままがいいに決まっている。
アルフォンシーヌは封を切って中身を見る。手紙が入っていた。取り出して開き、全体を見る。
あれ?
何かが足りない気がしたが、細かい確認の前にアルフォンシーヌは文章に目を向けた。まずは何が書かれているのか把握しなくては。
《まれに交わりで魔力を失う者がいる。今日の鍛錬は休めるように手配済みなので、部屋で寝ていること。手紙に添えている瓶には避妊薬が入れてある。日が沈む前に飲み切るように。》
なるほど、この瓶は避妊薬ね。
子どもができたら困るのだとアルフォンシーヌは理解する。
瓶の中身がわかったところで、ようやく手紙の違和感の正体に気づいた。
サインがない?
文字は公式文書でよく見る美しい崩し字で、筆跡から差出人を特定することはできそうにない。ただ、そこにあるべきだろう署名がこの手紙にはなかった。
リシャール殿下が来ていたなら、本人の名前か、せいぜい昨夜の首謀者の名前が書かれているものじゃないの?
呼び出された手紙にはリシャール殿下の名が刻まれていたので、この手紙には殿下のサインがついているのが一番もっともらしいであろう。しかし、それがない。リシャール殿下が書き忘れたのだろうかと一瞬悩んだが、公式文書にサインをすることが多いだろう彼がそれを忘れる可能性は低い気がした。
じゃあ、あたしを抱いたのは誰?
メルヒオールはこの部屋にいたのだろうか。そして、リシャール殿下はこの部屋に来たのだろうか。
……とりあえず、自分の部屋に帰ろう。落ち着かないし。
部屋に差し込む陽射しで明るい。見える調度品はいずれも自室にあるものよりはるかに値の張るものだ。宮廷魔導師であっても、気軽に入れるような部屋ではないことがわかる。それゆえに、アルフォンシーヌには居心地が悪かった。
シーツ汚しちゃったけど、これ、このままでいいのよね……?
証拠隠滅のためにシーツを握りしめて部屋に戻ろうかと考えたが、その途中で誰かに出会っても厄介だ。
魔力を失っていなければ燃やすのに……。
小さくため息をついて、アルフォンシーヌは自分の服を身につける。きちんとたたまれて置かれていたことに、妙な気恥ずかしさを覚えていた。
なんであたしがこんな目に……。
いい夢を見させてもらっただけだったらよかったのにと心の中で恨み言を募らせながら、アルフォンシーヌはこっそりと部屋を出たのだった。
って、のんきに寝ている場合じゃないわ!
アルフォンシーヌは目をかっと見開く。勢いよく上体を起こすと、下肢にだるさを感じ取った。そしてドロリとしたものが股からこぼれ落ちる感覚に気づいて、かけられていた毛布を躊躇せずめくった。
夢じゃないんだ……。
シーツに残る赤いシミは破瓜の跡だろう。むき出しの肌は綺麗なままに思えたが、内腿のあたりに血のようなものと白濁したものがこびりついていて、昨夜の情事を想起させた。
待って……なんであたしは一人きりなのよ……。
記憶を呼び起こす。あのとき《メルヒオール》は「あとで話す」と言っていたのではなかったか。
ふだん使っているベッドよりもずっと豪奢なその上で、まさか置き去りにされるとは思わなかった。
あー、でも、相手は師匠だしなぁ……。
メルヒオールが優しさを期待できない相手であることを思い出し、アルフォンシーヌは頭を抱えた。
本当にメルヒオールさまだったのかしら……?
昨夜のことが理解できない。処女を奪われたらしいことは身体の状態から考えるに確かであるが、それ以外の全てが疑わしく感じられた。
アルフォンシーヌがベッドサイドのテーブルを見やると、小さな瓶が一本置いてあるのが目に入る。毛布に身を包んで近づくと、封筒がセットになっているのに気がついた。
封筒には王家の紋章が刻まれた封蝋が施してある。もちろん未開封だ。
王族からの手紙……?
昨夜現れるはずだったのはリシャール殿下である。手紙が置かれていることに大きく不審な点はない。
じゃあ、あれはリシャール殿下だったってこと? 魔法を使って、メルヒオールさまに見せかけた……とか。
そう考えてみるが、リシャール殿下がわざわざそんな手間をかけてまでアルフォンシーヌを抱く理由がない。それに王妃や寵妃の選定であれば、本人のままがいいに決まっている。
アルフォンシーヌは封を切って中身を見る。手紙が入っていた。取り出して開き、全体を見る。
あれ?
何かが足りない気がしたが、細かい確認の前にアルフォンシーヌは文章に目を向けた。まずは何が書かれているのか把握しなくては。
《まれに交わりで魔力を失う者がいる。今日の鍛錬は休めるように手配済みなので、部屋で寝ていること。手紙に添えている瓶には避妊薬が入れてある。日が沈む前に飲み切るように。》
なるほど、この瓶は避妊薬ね。
子どもができたら困るのだとアルフォンシーヌは理解する。
瓶の中身がわかったところで、ようやく手紙の違和感の正体に気づいた。
サインがない?
文字は公式文書でよく見る美しい崩し字で、筆跡から差出人を特定することはできそうにない。ただ、そこにあるべきだろう署名がこの手紙にはなかった。
リシャール殿下が来ていたなら、本人の名前か、せいぜい昨夜の首謀者の名前が書かれているものじゃないの?
呼び出された手紙にはリシャール殿下の名が刻まれていたので、この手紙には殿下のサインがついているのが一番もっともらしいであろう。しかし、それがない。リシャール殿下が書き忘れたのだろうかと一瞬悩んだが、公式文書にサインをすることが多いだろう彼がそれを忘れる可能性は低い気がした。
じゃあ、あたしを抱いたのは誰?
メルヒオールはこの部屋にいたのだろうか。そして、リシャール殿下はこの部屋に来たのだろうか。
……とりあえず、自分の部屋に帰ろう。落ち着かないし。
部屋に差し込む陽射しで明るい。見える調度品はいずれも自室にあるものよりはるかに値の張るものだ。宮廷魔導師であっても、気軽に入れるような部屋ではないことがわかる。それゆえに、アルフォンシーヌには居心地が悪かった。
シーツ汚しちゃったけど、これ、このままでいいのよね……?
証拠隠滅のためにシーツを握りしめて部屋に戻ろうかと考えたが、その途中で誰かに出会っても厄介だ。
魔力を失っていなければ燃やすのに……。
小さくため息をついて、アルフォンシーヌは自分の服を身につける。きちんとたたまれて置かれていたことに、妙な気恥ずかしさを覚えていた。
なんであたしがこんな目に……。
いい夢を見させてもらっただけだったらよかったのにと心の中で恨み言を募らせながら、アルフォンシーヌはこっそりと部屋を出たのだった。
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