上 下
12 / 110
1:魔導師として宮廷入りしたので、そのお仕事はお引き受けしかねます!

目が覚めると

しおりを挟む
 身体から魔力が抜け切っている。精霊王の加護を感じない朝というのはアルフォンシーヌには初めてだ。

 って、のんきに寝ている場合じゃないわ!

 アルフォンシーヌは目をかっと見開く。勢いよく上体を起こすと、下肢にだるさを感じ取った。そしてドロリとしたものが股からこぼれ落ちる感覚に気づいて、かけられていた毛布を躊躇せずめくった。

 夢じゃないんだ……。

 シーツに残る赤いシミは破瓜の跡だろう。むき出しの肌は綺麗なままに思えたが、内腿のあたりに血のようなものと白濁したものがこびりついていて、昨夜の情事を想起させた。

 待って……なんであたしは一人きりなのよ……。

 記憶を呼び起こす。あのとき《メルヒオール》は「あとで話す」と言っていたのではなかったか。

 ふだん使っているベッドよりもずっと豪奢なその上で、まさか置き去りにされるとは思わなかった。

 あー、でも、相手は師匠だしなぁ……。

 メルヒオールが優しさを期待できない相手であることを思い出し、アルフォンシーヌは頭を抱えた。

 本当にメルヒオールさまだったのかしら……?

 昨夜のことが理解できない。処女を奪われたらしいことは身体の状態から考えるに確かであるが、それ以外の全てが疑わしく感じられた。

 アルフォンシーヌがベッドサイドのテーブルを見やると、小さな瓶が一本置いてあるのが目に入る。毛布に身を包んで近づくと、封筒がセットになっているのに気がついた。

 封筒には王家の紋章が刻まれた封蝋が施してある。もちろん未開封だ。

 王族からの手紙……?

 昨夜現れるはずだったのはリシャール殿下である。手紙が置かれていることに大きく不審な点はない。

 じゃあ、あれはリシャール殿下だったってこと? 魔法を使って、メルヒオールさまに見せかけた……とか。

 そう考えてみるが、リシャール殿下がわざわざそんな手間をかけてまでアルフォンシーヌを抱く理由がない。それに王妃や寵妃の選定であれば、本人のままがいいに決まっている。

 アルフォンシーヌは封を切って中身を見る。手紙が入っていた。取り出して開き、全体を見る。

 あれ?

 何かが足りない気がしたが、細かい確認の前にアルフォンシーヌは文章に目を向けた。まずは何が書かれているのか把握しなくては。

《まれに交わりで魔力を失う者がいる。今日の鍛錬は休めるように手配済みなので、部屋で寝ていること。手紙に添えている瓶には避妊薬が入れてある。日が沈む前に飲み切るように。》

 なるほど、この瓶は避妊薬ね。

 子どもができたら困るのだとアルフォンシーヌは理解する。

 瓶の中身がわかったところで、ようやく手紙の違和感の正体に気づいた。

 サインがない?

 文字は公式文書でよく見る美しい崩し字で、筆跡から差出人を特定することはできそうにない。ただ、そこにあるべきだろう署名がこの手紙にはなかった。

 リシャール殿下が来ていたなら、本人の名前か、せいぜい昨夜の首謀者の名前が書かれているものじゃないの?

 呼び出された手紙にはリシャール殿下の名が刻まれていたので、この手紙には殿下のサインがついているのが一番もっともらしいであろう。しかし、それがない。リシャール殿下が書き忘れたのだろうかと一瞬悩んだが、公式文書にサインをすることが多いだろう彼がそれを忘れる可能性は低い気がした。

 じゃあ、あたしを抱いたのは誰?

 メルヒオールはこの部屋にいたのだろうか。そして、リシャール殿下はこの部屋に来たのだろうか。

 ……とりあえず、自分の部屋に帰ろう。落ち着かないし。

 部屋に差し込む陽射しで明るい。見える調度品はいずれも自室にあるものよりはるかに値の張るものだ。宮廷魔導師であっても、気軽に入れるような部屋ではないことがわかる。それゆえに、アルフォンシーヌには居心地が悪かった。

 シーツ汚しちゃったけど、これ、このままでいいのよね……?

 証拠隠滅のためにシーツを握りしめて部屋に戻ろうかと考えたが、その途中で誰かに出会っても厄介だ。

 魔力を失っていなければ燃やすのに……。

 小さくため息をついて、アルフォンシーヌは自分の服を身につける。きちんとたたまれて置かれていたことに、妙な気恥ずかしさを覚えていた。

 なんであたしがこんな目に……。

 いい夢を見させてもらっただけだったらよかったのにと心の中で恨み言を募らせながら、アルフォンシーヌはこっそりと部屋を出たのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?

季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……

【R18】偽りの夜 聖女は最愛の人の目の前で、同じ顔をした別の男に抱かれる

夕月
恋愛
今夜、聖女ブランシュは、神の子ジスランに抱かれる。 聖なる交わりには立会人が必要とされ、二人の行為を見守るのはジスランの双子の兄、アルマン。この国の第一王子でもある彼は、ブランシュの婚約者だった人だ。 かつて将来を誓い合った最愛の人の目の前で、ブランシュは同じ顔をした別の男に抱かれる――。 ムーンライトノベルズで開催されていた個人企画、NTR企画への参加作品です。 寝取り、寝取られ要素を含みますので、ご注意ください。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

中でトントンってして、ビューってしても、赤ちゃんはできません!

いちのにか
恋愛
はいもちろん嘘です。「ってことは、チューしちゃったら赤ちゃんできちゃうよねっ?」っていう、……つまりとても頭悪いお話です。 含み有りの嘘つき従者に溺愛される、騙され貴族令嬢モノになります。 ♡多用、言葉責め有り、効果音付きの濃いめです。従者君、軽薄です。 ★ハッピーエイプリルフール★ 他サイトのエイプリルフール企画に投稿した作品です。期間終了したため、こちらに掲載します。 以下のキーワードをご確認の上、ご自愛ください。 ◆近況ボードの同作品の投稿報告記事に蛇補足を追加しました。作品設定の記載(短め)のみですが、もしよろしければ٩( ᐛ )و

初めての相手が陛下で良かった

ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。 ※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。

俺の彼女が黒人デカチンポ専用肉便器に堕ちるまで    (R18禁 NTR胸糞注意)

リュウガ
恋愛
俺、見立優斗には同い年の彼女高木千咲という彼女がいる。 彼女とは同じ塾で知り合い、彼女のあまりの美しさに俺が一目惚れして付き合ったのだ。 しかし、中学三年生の夏、俺の通っている塾にマイケルという外国人が入塾してきた。 俺達は受験勉強が重なってなかなか一緒にいることが出来なくなっていき、彼女は‥‥‥

大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます

スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!? 「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!! 『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。 ・R18描写のある話には※を付けています。 ・別サイトにも掲載しています。

騎士団長様、ぐちゃぐちゃに汚れて落ちてきて

豆丸
恋愛
  騎士団長が媚薬を盛られて苦しんでいるので、騎士団の文官ソフィアが頼まれて、抜いてあげているうちに楽しくなっちゃう話。 

処理中です...