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1:魔導師として宮廷入りしたので、そのお仕事はお引き受けしかねます!

今思えば、一目惚れでした。

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 メルヒオールに出会ったのは、最初の宮廷魔導師採用試験のときだった。有望な魔導師であるという話は噂で聞いていたが、実際に彼の顔を見たアルフォンシーヌは一目惚れをした。この人の下で、魔法を学びたい――それは恋心も含んでのことだと今なら思えるが、このときはまだ純粋に勉学のために彼と関係を持ちたいと望んでいるつもりだった。

 面接と実技試験でメルヒオールが試験官として現れたときには心が躍った。ここで担当した人物と師弟関係になることが多いと聞いていたからだ。
 だから、実技試験で自慢の火炎魔法を見せたとき、彼に自分の未熟さを辛辣な言葉で指摘されたのは結構ショックだった。

「ほう。この程度で宮廷魔導師になれるとでも? 甚だ呆れたものですね。ずいぶんと安く見られたものだ」

 美しい顔で冷たく言い放たれた。
 もう一人の試験官は「いやいや、これだけの火力をこの年齢で出せるのはとても貴重ですよ」と言ってフォローしてくれたが、「現役の宮廷魔導師にはこの程度などたやすく出せる者がいくらでもいます」ときっぱり。

「ほかの魔法についてもこのくらいの威力があるのならば、まだ採用の可能性はあるでしょう。しかし、君は不得意分野が多すぎる」

 入試前に提出した書類を見て言っているのだろう。正直に書きすぎただろうか、少しでも誇張しておくべきだったかと、アルフォンシーヌは幼い考え方の自分を省みた。

「で、ですが、それは研修生になってから学んでも――」

「へぇ。口ごたえをしますか? 魔導師見習いでしかない分際が、宮廷魔導師に」

「…………」

 反論しようとしたが、メルヒオールに冷たくにらまれてアルフォンシーヌは黙る。ただ、奥歯に力を入れて噛みしめた。
 これでもカスペール家の長い歴史の中でも才能があるほうだと言われて育ってきたのだ。甘くみて試験対策を怠ったことは認めるが、宮廷魔導師を安く見ていたわけではない。

「火力自慢をしたくてここを訪ねたのなら、まだまだ子どもだということです。火炎魔法は派手ですからね。周囲にちやほやされて、自分の力量を知る機会がなかったのでしょう。だとしても、浅はかです」

 厳しい口調で言い切って、メルヒオールは踵を返す。アルフォンシーヌはうろたえた。

「え、あのっ!」

 声をかけると、顔だけこちらに向ける。笑顔だが冷ややかだ。

「君は不採用です。もっと知見を広げ、魔法が何たるかを学んで出直しなさい」

 そう告げて、メルヒオールは試験会場から出て行く。もう一人の試験官も「そういうことですので、お疲れ様でした」とだけ伝えて、彼のあとを追いかけて行った。

 この一件ではメルヒオールに対してとても腹が立った。出直せというのだから、研鑽を重ねて絶対に認めさせてやると心に誓った。
 その後の試験でもメルヒオールは試験官として現れ、そして三度目の受験で彼の弟子になった。
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